国家産業技術戦略と日本技術者教育認定機構に関する説明会/2月16日
わが国の今後の産業技術力の強化のために、産学官の代表者からなる「国家産業技術戦略検討会」(座長:吉川日本学術会議会長)は、昨年末、その一次取りまとめで今後の産業技術力の強化のために、キャッチアップ型からフロンティア創造型への技術革新システムの改革を打ち出すとともに、人材育成の重要性を訴えている。そこで、同検討会の座長であり、国際的に通用する技術者教育の審査・認定を目指して昨年11月に発足した日本技術者教育認定機構(JABEE)の会長である吉川会長等関係者を招き、説明会を開催した。
わが国は、製造業を中心とする高度な産業技術を通じて、高品質で、高い信頼性をもち、しかも低価格の商品生産により、高度成長を実現した。しかし、その産業技術における技術的優位性を活用し、次の段階へ踏み出す政策的対応を欠いていたため、その優位性を失ないつつある。
その意味で、今後新しい技術を探るとともに、大きな戦略を打ち立て、再び技術的優位性を築く必要がある。
今までもグローバル戦略としての技術移転、国際科学技術共同開発プログラム、創造的人材の育成等が検討されてきたが、未だ十分な成果は出ていない。
このような状況のなかで、昨年「国家産業技術戦略」の策定が開始され、昨年末にその一次取りまとめがなされた。当戦略はまず、
現在の問題は、大学の技術者教育が工学教育に偏重していることにある。製品、人間の営みが技術とは無関係ではない現代において、技術者は非常に大きな責任を負っている。その意味で、科学者、研究者の好奇心自体が変わる必要があり、単に自然とは何か探求するのではなく、人類がこの環境の中で生き延びるためにはどのような方法があるかという関心に変わる必要がある。
よい技術者を得ることは、産業としての必要条件というよりは、むしろ全てである。そのために、技術者教育認定制度とは大学だけのものではなく、産業のものであり、国家産業技術戦略とJABEEは一体的に考え、取り組むべきである。
国際競争が激化する中、革新的な分野を中心に、わが国の技術水準は米国に著しく遅れており、新たな技術開発体制の構築により、プロセスイノベーションの維持・向上とプロダクトイノベーションの強化が重要である。
そのような中、本年2月産業技術力強化法案が閣議決定された。その概要は以下の通りである。
第1に、大学の研究活動の活性化のための環境整備として、民間から国立大学への資金受入れ円滑化措置、産学連携のための大学教官への研究助成制度の創設、大学及び大学教官に対する特許料等の軽減を図る。
第2に、研究成果の産業への移転の円滑化として、国公立大学教官等の民間企業役員への兼業規制の緩和、TLOの国立大学キャンパスへの無償使用措置を図る。
第3に、民間における技術の「実用化」に向けた環境整備として、実用化・実証のための民間の応用技術開発への補助金制度の導入、創造的中小企業に対する特許料等の軽減を図る。
第4に、研究者等の確保、養成および資質の向上等のために、若手研究者を国研、産業界等へ派遣する産業技術人材養成事業の創設を図る。
日本技術者教育認定機構(JABEE)は昨年11月に設立された任意団体であり、学協会の集合体である。
JABEEは、4年制の高等教育機関における技術者教育に対して、世界的な基準により外部審査と認定を行なう。現在の高等教育機関における技術者教育は全体的なレベルの低さに加え、社会の要求水準を満たしていないので、これにより、日本の閉鎖的な高等教育に風穴をあけるとともに、世界的なレベルでの教育に向上させたい。また、欧米では技術者教育・資格について、半世紀以上の歴史があり、ワシントン協定等世界的な相互承認の動きが進んでいるが、日本では遅れている。そのため、ワシントン協定への参加を視野に入れた国際的同等性を確保できる内容とする。
教育プログラム審査は、共通基準と分野別基準の2つを設けて実施する。教育プログラムの審査・認定作業の主体的担い手は専門学協会である。JABEEは各専門分野を担当する学協会を指名し、その調整、統括を行ない、国際的問題に対応する等のコンダクター的な役割を果たす。しかし、本制度は未確立であり、各専門分野について、モデル教育機関において審査・認定作業の試行が必要である。
事業計画としては、教育プログラムの認定、認定基準の策定、手順マニュアルの策定、審査者の養成、普及・啓発、情報発信、国際対応等がある。対象技術分野は、現在、電気、機械、資源、建築、土木、材料、農業土木、農学、化学、情報処理、情報通信等の分野で検討を進めている。
JABEEは、当面は、共通・分野別基準の策定とともに高等教育機関に対してプログラム審査を行なう。この段階では、資金調達が難しいことから、企業並びに行政による財政支援が必要であり、企業に賛助会員としてご協力をお願いしたい。