経団連くりっぷ No.120 (2000年3月9日)

輸送委員会企画部会(部会長 横山善太氏)/2月16日

東京都のディーゼル車NO作戦などについてきく


東京都では、東京の交通渋滞の解消と環境改善を図る観点から「TDM(交通需要マネジメント)東京行動プラン」および「ディーゼル車NO作戦」を提案している。これらには、軽油優遇税制の是正といったディーゼル車規制の強化やロード・プライシングの導入等が含まれており、経済活動に少なからぬ影響を与えることが予想される。そこで、東京都の柿沼 伸二 政策報道室長をはじめ関係幹部から、東京都の自動車交通と環境改善の取組みについて説明をきくとともに意見交換を行なった。

  1. 東京都側説明要旨
    1. ディーゼル車NO作戦について
    2. 都の自動車交通と環境との相関関係について、石原都知事は「トレードオフの時代は終わった」と言っている。すなわち、戦後の日本社会は高度経済成長の過程で、環境破壊を代償に豊かさ、便利さを追求してきたが、今日、「命に代わる価値はない」というのが知事の認識である。
      こうした観点から、知事は昨春の当選後ディーゼル車対策の検討を開始し、昨年8月末に「ディーゼル車NO作戦」を提起した。また、その第2弾として12月に公表した「ディーゼル車NO作戦ステップ2」においては、東京都の現行の公害防止条例を全面的に改正して、都の環境を改善したいとしている。今年中にも改正に着手すべく作業が進められており、3月には都の環境審議会で答申が行なわれる予定である。
      具体的には、

      1. 大型貨物車・バス等へのDPF(ディーゼル微粒子除去装置)の装着義務づけ、
      2. ディーゼル車からガソリン車等への代替義務づけ、
      等を実施すべく、東京都公害防止条例改正案を成立させ、2001年4月以降、段階的に実施していきたいと考えている。
      自動車排ガスに含まれる浮遊粒子状物質(SPM)の一部差し止めを命じた尼崎訴訟神戸地裁判決は、大気公害裁判の歴史において初めて「行政の不作為の責任」を追求した画期的なケースであった。こうした世の中の流れも踏まえながら、東京都は「ディーゼル車NO作戦」等、さまざまな施策を講じていく。
      統計によれば、都内のディーゼル車保有台数は頭打ちになっているものの、都への流入車両は増加しており、これに対する総量規制等の対策が必要である。
      また、都では80ヵ所余りにおいて、窒素酸化物(NOx)やSPM等を常時測定しているが、ほとんどのところで環境基準を達成できていないのが現状である。
      住宅地沿道のSPMについては、排出ガス規制値0.1mg/kmという環境基準を達成しているのはわずか15%に過ぎず、ディーゼル車の使用が最大の原因である。例えば、東京の経済活動を支えている物流の大半がディーゼル車に依存しているのみならず、都バスや都清掃局が保有する千台以上の清掃車もほとんどがディーゼル車である(図参照)。
      図「輸送機関別の貨物輸送量」と「国内商用車のディーゼル車比率」
      このように、ディーゼル車が一般の生活から切り離せないものであることは知事も十分に認識しており、「都民は被害者であると同時に加害者である」と言っている。そこで、事業者のみならず都民としても東京においていかに自動車を使うべきか、都のルールを周知徹底させる必要がある。

    3. 交通需要マネジメント(TDM)
    4. 従来、交通容量、すなわち道路というハードインフラを増やすことにのみ施策の力点が置かれてきたが、それだけで東京の大気環境を改善することは不可能であり、流入車両等の交通需要を管理することが不可欠である。また、「需要者からの環境革命」、「持続性のある都市の構築」という観点からも、TDMは極めて重要な施策である。
      具体的には、交通渋滞の解消の観点から、(1)駐車場や荷捌き施設の整備を促進するとともに、(2)一定区域に進入する自動車に対し料金を課す、いわゆるロード・プライシング制度を導入したいと考えている。これによって、自動車走行量の削減、NOx、CO2の排出量削減等の効果が期待でき、2003年以降の早期導入を目指して鋭意取り組んでいるところである。
      国立環境研究所等の調査によると、ディーゼル車の排出するSPMが原因の肺癌死亡者数が肺癌死者総数に占める割合は、千葉市で19%、東京都で16%となっており、全国で年間約5,000人が犠牲となっている。
      知事の「命に代わる価値はない」との認識に立って自動車対策に本格的に注力し、東京の環境基準を21世紀のナショナル・スタンダードにしたい。

  2. 意見交換(要旨)
  3. 経団連側:
    物流活動は水、電気と同様ライフラインである。ディーゼル車排除によって経済活力が相当低下するのではないか。また、軽油優遇税制の是正が施策として掲げられているが、軽油価格は米国と比較しても4〜5倍であり、決して優遇されているわけではない。
    東京都側:
    都内物流の9割が貨物輸送トラックによるものであり、今後は利用者がコストを負担する時代になる。また、軽油とガソリンの税負担を比較すると、軽油の方がその割合が低く、ディーゼル車使用に寄与しているという面は否めない。

    経団連側:
    ディーゼル車以外にトラックはないことを理解してほしい。DPFは大型トラック用で300万〜400万円かかり、早期装着は容易ではない。また、大型貨物の輸送には揮発油のガソリンではなく軽油が適していることも考慮すべきである。
    東京都側:
    DPFは量産次第で160万〜170万円まで低下したものができる。また、全ての車に一律に規制をかけるか否かについては、直ちに規制をかけるのではなく、一定の期間を設定し、古い車から徐々に規制するという方法も検討中である。

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