経団連くりっぷ No.120 (2000年3月9日)

防衛生産委員会(司会 永松恵一事務局長)/2月17日

米国2001年度国防予算案と米国防政策の新たな動き


防衛生産委員会では、米国の国防関係コンサルタント会社「パイパー・パシフィック・インターナショナル」のパイパー社長より、2月7日にクリントン大統領が提出した2001年度予算教書の国防予算案の概要とその安全保障政策上の意義について説明をきくとともに懇談した。

パイパー社長説明要旨

  1. 大統領選挙の影響
  2. 米国では、今年の11月7日に大統領選、下院議員選、上院議員の3分の1の改選が予定されており、政治的に重要な時期を迎えている。したがって、2月7日に提出された2001年度大統領予算教書(2000年10月〜2001年9月)は、現政府の政治的意思の表明と見ることができる。
    クリントン政権は、就任以来7年間、国防予算については、前年の要求額を下回る予算案を提出しており、共和党が多数を占める議会がその要求を上回る予算を決定するという状況が続いてきた。しかし、今回はクリントン大統領の就任後初めて、前年度の予算額2,890億ドルを上回る3,054億ドルの国防予算を要求している。
    この背景としては、安全保障に対して消極的な姿勢を見せることは、民主党候補にとって、共和党からの攻撃材料になり、選挙戦に不利になることがある。今年夏に予定されているNMD(National Missile Defense:国家ミサイル防衛システム)配備に関する大統領決定についても、これを推進する方向での政治的圧力が強まっている。今後、最終的予算の決定まで、議会による予算案の書き換え等、政権と議会との綱引きが行なわれる。

  3. 軍備の近代化方針を反映した国防予算案
  4. コソボ紛争における米軍とNATO軍との共同作戦の経験から、軍隊の即応能力の向上と軍備の近代化を推進する「軍事革命(RMA:Revolution in Military Affairs)」並びに同盟国軍とのインターオペラビリティ(相互運用性)の必要性が認識されている。今回の予算教書では、陸海空軍ともに、コソボ紛争を通じて学んだ教訓を生かし、同盟国間での広範囲に亘る情報共有システムの構築、即応性を高めるための各種兵器の軽量化・近代化を図ろうとしている。

  5. NMDの推進
  6. クリントン大統領は、これまでの任期中、弾道ミサイル防衛に対しては積極的ではなかった。しかし、一昨年8月の北朝鮮によるテポドンミサイル発射により、米国に対する弾道ミサイルの脅威が明白になったこと等を踏まえ、クリントン政権はNMDの早期実現に向け、研究開発に必要な予算を確保し、今年6月にNMD配備について決定を下す方針を示している。
    NMDは対弾道ミサイル(ABM)条約に抵触する可能性があることから、ロシアとの条約改正交渉も必要になると考えられており、実際の配備に向けた課題は多い。


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