経団連くりっぷ No.121 (2000年3月23日)

国土・住宅政策委員会 地方振興部会(部会長 阿比留 雄氏)/2月24日

モノづくりの心によって人的交流を促進する「産業観光」

−中部における観光振興の取組みにつき現地視察・懇談会を開催


地方振興部会では、わが国観光のあり方を検討するとともに、日本各地における地域活性化と観光振興に対する取組みについて視察を重ねている。名古屋市をはじめ中部地域では「産業観光」というコンセプトのもと、域内に点在する産業遺産を有機的に連携させ、注目を集めている。
そこで、当部会では、同地域を訪問し、東海旅客鉄道の須田 寛会長や2005年日本国際博覧会協会など関係者から「産業観光」や愛知万博の概要等について説明をきくとともに懇談した。併せて、産業技術記念館、徳川美術館、愛知青少年公園(愛知万博開催予定地)、愛知県陶磁資料館を視察した。

  1. 須田会長説明要旨
    1. わが国および中部の観光をめぐる概況
    2. わが国の国内観光は大きな曲がり角に直面している。海外旅行が活況を呈する中、国内観光は大きく衰退し、毎年1,600万人の日本人が外国を訪れる一方、日本を訪れる外国人観光客はわずか400万人に過ぎない。さらに、団体旅行や修学旅行が減少し、グループ旅行、個人旅行が主流となっている。
      こうした状況下、国内観光が速やかに不振から脱し、新しい発展の軌道に乗ることが期待される。国内産業が成熟過程に入り、産業構造が変化する中、観光は21世紀の基幹産業として注目される。また、観光産業は、国内総生産(GDP)の約5%にあたる20兆円を産出する裾野の広さを有するとともに、雇用効果が大きく、日本経済活性化の起爆剤として極めて重要である。
      新しい全国総合開発計画において、中部は「先端的産業技術の世界的中枢」ならびに「国際交流の中枢圏域」と位置付けられており、今後、中部国際空港等のインフラ整備の促進によって国際交流機能の増大が期待される。中部地区は、全総計画に定める4つの国土軸が集中し、交わる地域であり、人流および物流の観点から、ロータリーの機能を果たさなければならない。
      そこで、交流人口の増大を図るためには、人を呼ぶための道具立てを工夫する必要がある。観光は新産業の切り口から非常に重要であり、観光をこの地域の基幹産業として育てる必要があると認識している。

    3. 「産業観光」とは何か
    4. 中部地域には、「中部は観光地として見るべきところはなく、専ら生産地域である」という意識が根強い。これには、「観光は物見遊山の非生産的な行為」という日本人一般の考え方が影響しており、こうしたメンタリティを改める必要がある。
      幸い、中部地域には産業機器や工場等、重要な産業文化財が夥しく集積している。「産業観光」とは、このように歴史的意味を持つ産業遺産を観光資源とし、それらを介してモノづくりの心に触れることによって、人的交流を促進する観光活動と定義することができる。
      中部地域において産業文化財が多い理由は、

      1. 明治以降、自動車や織機工場をはじめとする近代産業の急速な発展が見られたこと、
      2. 陶磁器製造、醸造業、染織など徳川時代にこの尾張の地に根差してきた伝統産業が近代化を遂げたこと、
      3. その後、これらの産業発展を維持するための社会インフラの育成・発展が見られたこと、
      である。
      このように多種多様な産業文化財が、名古屋を中心に中部各地に大切に保存され、それらを公開展示する資料館、博物館も各地に多数設立されている。これらの文化財に触れることによって、われわれは日本の産業発展の姿に接し、先達のモノづくりの心に触れることができよう。

    5. 今後の課題
    6. 中部地域における織物のコレクションは日本でも随一と評価されている。また、トヨタの自動車博物館や県陶磁資料館等も、各々の分野で世界的なコレクションを誇っている。しかし、これらの観光資源を「産業観光」というコンセプトのもとに有機的に組み合わせることで付加価値は高まる。
      現在、中部地域では「観光のための産業遺産」のデータづくりを進めており、それをベースに「産業観光」のモデルコースをつくっている。しかし、これは地元でもあまり知られておらず、今後、自治体等に積極的に働きかけて、中高生の修学旅行等に利用してもらうよう努めることが重要である。
      国際観光については、アジアの観光客誘致に取り組むことが是非とも必要である。フィリピンやマレーシア等の東南アジア諸国の旅行者は、日本の産業発展の歴史を学びたいという気持ちが強く、国際的なキャンペーンの展開が有効であると考えている。
      いずれにせよ、観光の問題について議論を重ねながら、これを21世紀の新規産業として位置づけ、日本経済の起爆剤になるよう取り組んでいかなければならない。
      また、観光振興によって地域の活性化を図るべく、課題に直面している2005年日本国際博覧会(愛知万博)についても何とか成功させ、多くの人々が当地を訪れることを願っている。

  2. 意見交換要旨
  3. 経団連側:
    日本では、観光イコール物見遊山という固定観念が一般的で、TourismよりもSightseeingというニュアンスが強い。
    須田会長:
    観光とは国の「光」を「観る」ということに他ならない。そうした地域の特色を外から来る人に見せながら、人的交流を図ることが観光の重要な機能である。「観光」の重要性について周知徹底を図りたい。

    経団連側:
    万博については、中部地域に残る豊かな自然を最大限活用し、「森」と「産業」を上手に結び付けることによって、東南アジアから多くの人を呼び込むことができるのではないか。
    須田会長:
    万博とはそもそも「産業観光」のことである。1世紀前に、パリやロンドンなどで当時の技術の粋を結集し、世界の人に展示することから始まったのが万博の由来である。現在、万博開催に当たって問題となっている環境については、自然環境との共存という観点から、いかに産業技術を展示していくかが問われているが、関係者の工夫によって解決することは十分に可能であると考えている。


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