経団連くりっぷ No.123 (2000年4月27日)

バスティン米国サービス産業連盟事務局長との懇談会(司会 團野廣一 総合政策部会長)/3月31日

WTOサービス自由化交渉の進展に期待


WTO(世界貿易機関)では、さる2月25日開催のサービス貿易理事会特別会合を皮切りにサービス自由化交渉が開始された。そこで、米国サービス産業連盟(CSI)のバスティン事務局長より、サービス貿易交渉に対するCSIの考えについて説明をきいた。

バスティン事務局長説明要旨

  1. サービス自由化交渉の論点
  2. 本年2月、WTOのサービス自由化交渉がスタートした。CSIとしては、議論可能なテーマ・分野を選択しつつ現実的な対応をすることで、交渉が円滑に進捗することに期待している。分野横断的事項に関しては、サービス関連のセーフガード、国内規制、電子商取引が、そして個別セクターについてはオーディオ・ビジュアル、海運、航空クーリエ、エネルギー等が重要と考えている。

  3. セーフガード
  4. サービス関連のセーフガードについては「GATSルール作業部会」で議論が行なわれている。タイをはじめとするASEAN諸国がセーフガード・ルール策定に積極的姿勢を見せているのに対して、先進各国ほか香港やシンガポールは懐疑的である。セーフガードは発動の方法いかんによっては保護主義的に作用しかねない。特に、すでに進出している外国企業が提供するサービスに対して現地政府がセーフガードを発動する問題である。
    また、サービスの場合、モノと違って貿易量の計測が困難であることから、セーフガード発動の基準が曖昧となり、ひいては恣意的な発動がなされるおそれを禁じ得ない。CSIとしては経団連と連携してセーフガードに関する戦略を考えていきたいと考えている。

  5. 国内規制
  6. 「法の支配」が浸透している先進国にとっては当然のことであるが、各国の国内規制については透明性が不可欠である。また、GATS6条4項にもあるとおり、サービス貿易に対する不必要な障害を除去すべく、ルールづくりを推進する必要がある。競争促進的な規制改革という概念も重要であるが、全てのサービス分野に一律に当てはめるのは難しい。
    今後の議論でいくつかの重要な原則について合意できれば、個々のセクターにおいて同原則を基に議論を詰めていくことも可能であろう。この点については、経団連はもちろん、欧州サービスフォーラム(ESF)をも含め関係各方面と調整していくことになろう。

  7. 電子商取引
  8. 電子商取引については、関税賦課に関する合意が必要である。もっとも、そもそも電子商取引に対して関税を賦課することは技術的に困難である。電子商取引の分野においてより重要なのは「技術中立性」の問題である。
    すなわち、国際的な電子商取引がモノの貿易に分類されるのか、サービス貿易に分類されるのか議論が分かれるところであるが、少なくとも既存のサービスが電子商取引という形で提供される場合はサービス貿易に分類され、サービス自由化交渉の対象となるということである。この「技術中立性」については加盟国間でほぼコンセンサスができていたが、先のシアトル会議で閣僚宣言が採択されなかったため明文化されるに至っていない。
    電子商取引については、クラスター・アプローチによる自由化が有効であろう。すなわち、電子商取引にはコンピューター、インターネット、金融、広告等のサービスが関与しているが、これを一つのクラスターと捉え、自由化交渉を進めていくということである。

  9. 個別セクターについて
  10. 個別セクターに目を向けると、オーディオ・ビジュアル、海運については交渉が難航する可能性がある。オーディオ・ビジュアルについては欧州が、海運については米国が保護主義的な態度をとっており、交渉のテーブルにのせるのが難しい。この点に関して日本が積極的に関与することで突破口を開いていくことに期待している。
    エネルギー、航空クーリエについては当該産業の定義すらできていない。エネルギーについては、APECにおける定義づけをも参考に、WTOでも検討すべきである。

  11. 新ラウンド交渉との関係
  12. サービス自由化交渉等のビルト・イン・アジェンダを越えてWTOの場で包括的な交渉を推進していく必要性については十分認識している。この点については、日、米、欧、カナダの4極がまず合意し、その後徐々に他の加盟国にコンセンサスを広げていくことが重要と考えている。何故なら、途上国はWTOの場で自らの立場を主張したいという希望をもっている半面、先進国による強いリーダーシップを求めているからである。場合によっては7月の沖縄サミット以前にWTOの特別閣僚会議を開催できるかもしれない。
    他方、投資問題についてWTOの場で取り上げることについては賛成しかねる。OECDのMAI(多国間投資協定)交渉が高度に政治化され、結局失敗に終った経験を踏まえると、WTO交渉という期間が限られた場で投資問題を扱うことには問題が多い。むしろ、今後投資に関する協定を作るといった枠組についてのみ合意し、細かい点はその後の交渉が可能ならば適宜進める程度に止めておくべきであろう。現に、日本政府は、交渉の対象となりうる分野のうち特定の優先分野を抽出した、いわゆる「スモール・パッケージ」で交渉を進めたいと考えているようである。


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