経団連くりっぷ No.124 (2000年5月11日)

なびげーたー

自由貿易協定の積極的な活用を

参与 太田 元


わが国も貿易、投資の自由化や国際的な通商ルールを強化するうえで、自由貿易協定が果たす役割を積極的に評価し、WTO協定と整合的な形で自由貿易協定を活用すべきである。

昨年11月のWTOシアトル閣僚会議は残念ながら決裂した。包括的な新ラウンド交渉の早期実現に向けた、日米欧をはじめとする各国指導者のリーダーシップに期待したいが、当面急速な展開は見込めない。

こうした中、国内に自由貿易協定を活用すべしという声が次第に高まっている。既に、日本政府はシンガポールとの間で、3月より検討を開始した。メキシコ、韓国、その他幾つかの国からも呼びかけがあり、非公式な研究や検討が双方の政府機関、民間の間で進められている。

わが国は、従来、自由貿易協定は域外に対する障壁を高める懸念があるとして、WTO一辺倒の通商政策をとってきた。しかし、ここ1〜2年、WTOの強化と自由貿易協定は対立するものではなく、補完するものとの認識に変わりつつある。

事実、貿易上位30カ国中、多国間、二国間の自由貿易協定を結んでいないのは日本など数カ国にすぎない。このうち、韓国は年内にもチリとの自由貿易協定に署名する見通しである。しかも、EUやNAFTAの拡大の動きも一段と活発化している。自由貿易協定が域内の経済活動の拡大をもたらし、それが域外国との交流活発化、さらには自由化推進の一助となった可能性は大きい。

自由貿易協定といっても、内容はさまざまである。関税の相互撤廃や共通関税の導入から投資、サービス貿易の自由化を包含するもの、基準認証、さらにはセーフ・ガード、アンチ・ダンピング、紛争処理メカニズムまでカバーするものもある。要は、相手国との間で目指す目標を決め、これに沿って協定の中味を組み合わせることができる。いうまでもなく自由化交渉には競争力のない産業からの抵抗がつきものである。しかし、時間をかけて段階的に自由化を実現することも可能であるし、セーフ・ガード条項を組み入れるなど二国間交渉の利点を生かしてさまざまな工夫を凝らし、可能な限り例外を設けない開かれた協定の締結を目指すことはできる。

いずれにせよ、日本はマルチラテラリズムに軸足を置いてきたために、EU加盟国やNAFTA加盟国が既に経験してきた統合に必要な複雑かつ困難なプロセス、いうなれば相手国との制度・仕組みの差を認識し、これを調整するプロセスは未経験である。かかる調整はわが国にとって避けて通れない規制改革・構造改革と共通している場合が多く、その推進にもプラスである。グローバリゼーションが進む中、変化とスピードに迅速に対応するためにも、またWTOの自由化やルールづくりを先取りし、補完する意味からも自由貿易協定を活用する意義は大きい。

経団連では、自由貿易協定について、夏頃に提言をとりまとめる予定である。


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