経団連くりっぷ No.124 (2000年5月11日)

国際経済研究所グラハム上級研究員との懇談会(司会 太田 元 参与)/4月14日

WTOにおける投資ルールの策定には、MAIの教訓を活かす必要


経団連は、昨年5月の提言「次期WTO交渉への期待と今後のわが国通商政策の課題」の中で、国際的な投資ルールの整備の必要性を強く訴えた。しかしWTOにおける投資ルールの策定については、依然として加盟国間に大きな意見の対立がある。そこで、米国の国際経済研究所(Institute for International Economics)のグラハム上級研究員より、WTOにおける投資ルール策定の可能性と問題点について話をきくとともに懇談した。

  1. 多数国間投資協定(MAI)交渉の挫折の原因
  2. 多国間の投資ルールがもたらす経済的利益は非常に大きいにもかかわらず、OECDにおいて多国間かつ高水準の投資ルール策定を試みてきたMAI交渉は挫折した。
    その理由の第1は、反グローバル主導者による強い批判である。しかし、経済学的な実証によって、経済のグローバル化や対外直接投資の増大が途上国の貧困を導くという彼らの議論は完全に否定されている。第2は、交渉国間における重大な意見の不一致である。特に、国内法の域外適用、地域統合をそれぞれ例外扱いしようとする米欧の対立が顕著であった。
    また、MAI交渉には、こうした意見の不一致を克服する上でのダイナミズムがなかった。その主な理由は、

    1. 政治的な決断を下すべき政府高官が交渉に参加せず、各国の交渉担当者に譲歩をする準備や権限がなかったこと、
    2. 交渉のアジェンダが非常に狭く交渉国間で相互にバランスを取ることができなかったこと、
    などである。

  3. MAI交渉の教訓
  4. 今後WTOにおいて投資ルールの策定を行なうためには、MAI交渉の失敗を踏まえ、重要局面において各国交渉担当者が政治的な決断を行なうことを前提に、次期ラウンド交渉に広範なアジェンダを含める必要がある。特に、発展途上国が求めている、繊維製品、農産品等の先進国市場へのアクセス改善、アンチ・ダンピング協定の見直しが重要である。
    また、多くの途上国は、すでに投資政策に関してかなり一方的な自由化を進めており、WTOにおける投資ルールが低水準になるという懸念は必ずしも正しくない。

  5. 今後の見通し
  6. 米国の民主党政権は、投資ルールに否定的な上、支持基盤である労働組合に配慮し、WTOで労働基準を取り上げるよう主張している。これに対して途上国は保護主義的な政策であると強く非難しており、次期ラウンド交渉立ち上げの大きな障害となっている。もし大統領選挙で共和党が勝利すれば、こうした政策は変わる可能性が高い。
    また、日本の立場は非常に重要である。日本と欧州が協力しながら、投資ルールに関して強固なコンセンサスを形成する必要がある。


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