経団連くりっぷ No.124 (2000年5月11日)

情報通信委員会(委員長 藤井義弘氏)/4月17日

魅力ある日本に向けて情報通信政策を展開

−「21世紀情報通信ビジョン」について郵政省 有村通信政策局長よりきく


郵政省の電気通信審議会では、さる3月29日、「21世紀の情報通信ビジョン−IT JAPAN for ALL」と題する答申をとりまとめた。答申では「住みたい、訪ねたい、働きたい、投資したい」国づくりに向けたビジョンを示すとともに、今後の郵政省の具体的な取組み方針を打ち出している。そこで、情報通信委員会では、郵政省の有村正意 通信政策局長より、答申の内容と今後の郵政省の方針について説明をきくとともに種々懇談した。

  1. 文明の転換点に立つ日本
  2. 現在の日本は、工業社会型成功モデルが行き詰まり、社会に閉塞感が溢れている。また、少子・高齢化の急速な進展やアジア諸国の台頭など、わが国を取り巻く環境は大きく変化しつつある。
    同時に、IT(情報通信技術)による変革の波が押し寄せている。IT革命は、農業革命・産業革命に比肩するものであり、世界全体が「電子の大陸」ともいわれる新たな社会へと生まれ変わりつつある。今後、ITによる社会経済変革の成否が国の盛衰を大きく左右することになることが予想されており、わが国は的確かつ迅速な対応が求められている。

  3. 世界と共鳴し合う魅力ある日本の創造
    −IT JAPAN for ALL−
  4. 世界に先駆けてITを最大限に活用した社会経済改革を加速・推進し、国際社会において、「住みたい、訪ねたい、働きたい、投資したい」と思う「魅力ある日本」を創造していく必要がある。ITによる変革を前に、魅力ある日本の国づくりのビジョンを共有するとともに、ビジョンの実現に着手する必要がある。基本戦略として、(1)ITの高度化および導入・利用の促進(IT部門の最重要戦略部門としての位置付け、民間による重点的・集中的投資の誘導等)、(2)ITに対応した経済社会構造の変革(諸制度・慣行の見直し、人材育成、教育改革等)が必要である。

  5. 21世紀に向けた情報通信政策
  6. 21世紀に向けた情報通信政策は、(1)社会経済の原動力たるITの高度化とその効用の円滑かつ迅速な社会還元の加速・推進、(2)ITの動向を的確に見極め、国の政策資源を重点的に投入することを基本として考えるべきである。その上で、具体的な政策展開として、「5つの潮流」「2つの課題」に対応した政策を提言した。

    1. 「5つの潮流」
      1. 「高速」「常時接続」「低廉・定額」
        現在、個人向けの「定額」「常時接続」インターネット接続サービスが始まっている。今後、この流れを一層加速するため、地域通信市場における競争の一層の促進とともに、ネットワークインフラ整備を促進する税制・金融面の支援措置などを図る。

      2. 通信・放送の融合化
        デジタル化の進展やハードの伝送能力の飛躍的向上などにより、通信・放送の中間領域的サービスが出現するなど、通信・放送は接近しつつある。こうした状況に対応して、「融合」事例に対する現行制度での適切な運用を図るとともに、通信・放送制度の将来的なあり方に関する検討の場を設置する。

      3. 加速するネットワークとユーザ・ニーズの高度化
        ネットワークのIP化、モバイル化の進展とともに、ネットワーク・アプリケーション・コンテンツに係るサービスまでを総合的サービスとして提供する事業者が出てきている。新たなサービス・機器市場におけるわが国の情報通信産業のイニシアティブの確保、新ビジネス創出のためのテストベットの整備を図る。

      4. ボーダレス化
        ネットワークによる時間と距離の制約から開放され、企業や国の枠組みを超えた自由な行動が可能となったことにより、個人や企業は市場、技術等を総合的に判断して国を選択していくことになる。世界に向けて新たな日本文化の発信を促進するよう、情報通信インフラの整備や情報通信の利用面での環境整備を図り、「情報通信ハブ」化を推進する。

      5. 情報通信の担い手の多様化
        行政、企業、個人を含むわが国の全ての構成員が情報通信の発展の担い手となりえる。情報通信の新たな担い手の活動を活性化するため、SOHOなどを支援するとともに、地域コミュニティにおける情報通信の高度化を図る施策を展開する。

    2. 「2つの課題」
      1. デジタル情報格差(デジタル・ディバイド)
        コンピュータやインターネットに対するアクセス機会の不平等が国内および国家間で顕在化し、新たな格差が拡大している。国内格差の解消を図るため、情報リテラシーの涵養、21世紀型ユニバーサル・サービスの確保のあり方を検討する。また、地球規模の格差解消に対し、全ての人が容易にコミュニケーションできる環境整備に向けて、国際的な共同技術開発(音声認識、自動翻訳等)を実施する。

      2. 脆弱性
        高度なネットワークとその上を流通するデジタル情報に対する社会経済活動の依存度が急速に拡大している。ネットワークの破壊、デジタル情報の改ざんなどによる社会混乱の潜在的な危険性も拡大している。民間・政府におけるネットワーク・セキュリティ対策など、情報システムに支えられた社会の脆弱性に対する施策を総合的に推進する。

  7. おわりに
  8. 脱工業化社会に向けた社会変革の実現には、ビジョンの早期具体化が必要である。答申では、単に郵政省が行なうべきことだけでなく、社会全体で取り組むべき課題を指摘している。官民双方において価値観・予算・組織の不断の見直しを行なうとともに、人的・資金的各種リソースの集中化と再配分を大胆に実施することが重要である。


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