経団連くりっぷ No.124 (2000年5月11日)

防衛生産委員会(座長 永松恵一事務局長)/4月12日

中台関係とアジアの安全保障

−チップマン英国国際戦略問題研究所(IISS)所長と懇談


防衛生産委員会では、英国国際戦略問題研究所(IISS)のジョン・チップマン所長より、中台関係とアジアの安全保障について説明をきくとともに懇談した。同研究所は、1958年に設立された英国の民間シンクタンクで、安全保障に関する研究活動および「ミリタリー・バランス」等の出版活動は世界の外交・国防関係者の間で高く評価されている。

○ チップマン所長説明要旨

  1. 台湾新政権の対中姿勢
  2. 今後の中台関係は、台湾、中国、米国の国内的事情により、一層微妙な状況になる。近年、国民意識の高まりと、国際社会で台湾が適切な場を与えられていないという不満を背景に、昨年7月、李総統は「中台関係はもはや国家と国家の立場で捉えられるべき」と発言し、波紋を呼んだ。さらに、台湾独立を主張してきた民進党の陳水扁氏が総統に選出され、中国は大きな懸念を示している。一方、陳次期総統は唐飛氏の首相任命等で国民党の一部を取り込み、幅広い支持基盤を築きつつある。このため、中国との妥協も可能であり、陳次期総統は自信をもって対中関係に取り組める状況にある。

  3. 複雑化する中国の国内状況
  4. 中国では、政治内部の権力闘争が激化し、政治的指導力が弱まっている中で、法輪功問題、WTO加盟による農業への影響など国内問題を抱えている。香港、マカオの返還が実現した後、人民解放軍等から台湾統一の成功裏の決着を求める圧力が高まっている。

  5. 米中対立と対中戦略の明確化
  6. 昨今、米中対立が深まる中、米議会では、中国への最恵国待遇と台湾との軍事同盟強化法案が焦点となっている。議会は民主的に選出された総統を擁する台湾を支持していくという姿勢である。今後、中台関係安定化のため、従来の曖昧な戦略から、明快な戦略への転換が求められる。

  7. 朝鮮半島情勢
  8. 韓国が打ち出した太陽政策が、完全に国際化されたことは注目に値する。北朝鮮は、太陽政策を恐れていたが、今やその活用に方針を転換した。その意味で、今年6月の南北首脳会談は重要な局面となる。韓国経済界では、北朝鮮へのビジネスチャンスの期待は高いが、慎重に行なう必要がある。一方、汚職、援助物資の横流し等に失望し、北朝鮮からの援助団体の撤退も見られる。

  9. 米国のNMD(国家ミサイル防衛)構想
  10. NMDについては、クリントン大統領が配備の決定を見送っても、次期大統領が決定するであろう。米国政府は、現在ABM(弾道弾迎撃ミサイル)制限条約の改変をロシアに働きかけており、ロシアが応じる可能性がある。NMD構想により、米本土にとって中国のICBMは脅威でなくなり、米中台間の関係に大きな影響を与えよう。


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