経団連意見書/5月16日
本格的な少子高齢化社会の到来を控え、今後の潜在成長力を悲観視する議論が増えている。経済政策委員会(委員長 櫻井孝頴氏)では、こうした見方の妥当性や、より高い経済成長を実現するための方策などについて検討を行ない、標記意見書を5月16日の理事会の承認を得て公表した。以下はその概要である。
現状では、少子高齢化を背景とした期待成長率の低下と、現実の経済成長率低下の悪循環が発生している。
豊かさの追求は全ての経済活力の原動力であり、持続的な経済成長を図る必要がある。
国民の意欲・活力の維持
就学や勤労に努める気風を維持するには、新たな経済フロンティアの拡大が欠かせない。
将来世代の負担の軽減
将来の財政・社会保障負担を軽減するには、今後も持続的な国民経済発展が必要となる。
国際社会の期待への対応
諸外国の期待に応え、国際社会における時歩、国益を確保するためにも、経済力を強化しなければならない。
少子高齢化が潜在労働力の減少を招き、潜在成長力を低下させる惧れが指摘されている。
しかし、日本における過去の経済成長は、資本投入量の増加やTFP(全要素生産性)の伸びによるところが大きく、労働投入量の寄与は比較的小さい。
経団連の推計によれば、(1)女性・高齢者の活用によって労働力人口減少を最小限にとどめるとともに、(2)資本蓄積を促進し、(3)1990年代半ば程度のTFPの伸びを維持すれば、2025年までの間について、年平均2.7%程度の潜在成長力を確保できる。
実質成長率 | 労働寄与度 | 資本寄与度 | TFP寄与度 |
---|---|---|---|
2.7% | ▲0.3% | 1.5% | 1.5% |
この潜在成長力を現実のものとするためには、財政構造改革・社会保障制度改革・税制抜本改革・規制改革などの構造改革、新産業・新事業の創出などを推進していく必要がある。
米国では、IT革命によってTFP伸び率が上昇した(1995〜1998年の実質成長率3.8%のうち、1.8%はTFPの伸びによる寄与)。日本においても、IT革命を積極的に推進していくことが、TFPの伸びにつながると期待される。また、日本の場合、製造業のTFP寄与度は大きく、今後はとりわけ非製造業におけるTFPの伸び率上昇が課題となる。
製造業 | 非製造業 | |
---|---|---|
実質成長率 | 1.7% | 1.8% |
うちTFP寄与度 | 2.8% | 0.5% |
経済成長の必要性とそのための成長戦略を、財政構造改革・社会保障制度改革・税制抜本改革を視野に入れたグランドデザインとして、来年1月に新設予定の経済財政諮問会議において提示することが強く望まれる。
労働力人口の確保
設備投資の促進
TFPの上昇促進
少子化対策推進の必要性
政府、企業、地域・家庭それぞれの立場で少子化対策を粘り強く進め、出生率低下に歯止めをかけることが強く望まれる。
現在の雇用情勢への対応
足元の雇用情勢改善に向けて、成長分野への円滑な労働移動を促進する必要がある。