経団連くりっぷ No.125 (2000年5月25日)

東南アジア・ミッション報告会(座長 熊谷直彦副会長)/4月27日

アジアの経済回復と日本の役割


さる3月19日から26日まで、今井会長を団長とする東南アジア・ミッションが、タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシアを訪問した。この度のミッションでは、通貨・金融危機後のアジア諸国の経済情勢に関し理解を深めるとともに、それぞれの国が抱える課題やわが国との協力関係などについて率直な意見交換を行なうことができた。そこで、関係委員会の委員を対象に今井会長をはじめとするミッション参加者による報告会を開催した。

  1. 今井会長説明要旨
    (全体的所感)
  2. アジアへのミッションの派遣は、1998年秋以来で、一年半ぶりだった。今回は、日本経済も少しずつ良くなっており、アジア経済も前回に比べ相当回復しているという印象を受けた。他方、課題も多く残されている。
    第1に、タイやインドネシアにおける金融機関の再建や民間債務処理の問題である。基本的には当該国または当事者の努力が前提だが、わが国企業が新規投資の拡大を通じてアジア経済の発展に貢献する上で、この問題が障害になっているため、われわれとしても解決を促す必要がある。
    第2の課題として、各国における投資環境の改善や、裾野産業の整備および人材育成も引続き重要である。投資環境については、今回の危機により、外資規制が緩和された面もあるが、運用面でもその効果が表れるよう注視していくことが必要である。
    第3に円の国際化である。アジア諸国は、ASEAN+3等を通じて、日本への期待を強めており、日本はアジアのGDPの7割を占めることからも、アジアの中でリーダーシップを発揮していくことが重要である。為替の安定という面でも、わが国は円の国際化を推進することで貢献していくべきである。

  3. 草道 日タイ貿易経済委員長説明要旨
    (タイ訪問について)
  4. チュアン首相から、日本企業が危機に際しても現地にとどまったこと、またタイ製品の対日輸出が増加していることがタイ経済の回復に貢献していると謝意が示された。タリン大蔵大臣からは、投資の拡大、人材育成協力、タイの農産品の輸入拡大の3点につき要請を受けた。当方から、3月に施行された外国人企業規制法の改正法の運用の徹底、遅れている付加価値税の還付を要請した。付加価値税については、その後、一部還付が促進されたとの報告を受けている。さらに、円の国際化について、タイでは、円取引が増加していくと見込んで外貨準備の一部を円にシフトしているとの報告を受ける一方で、東京市場の効率化、B/A市場の整備の必要性を指摘された。スクムパン外務副大臣やタイ経済3団体との懇談も行なわれたが、今回の訪問のフォローアップを6月に開催予定の日タイ合同経済委員会で行なう予定である。

  5. 上島 日本・インドネシア経済委員長説明要旨
    (インドネシア訪問について)
  6. ワヒッド大統領、メガワティ副大統領、クィック経済調整大臣を表敬訪問するとともに、インドネシア商工会議所(KADIN)や現地日本企業代表との懇談会を行なった。
    インドネシア経済は、マクロの数字を見る限り、急速に回復の軌道にのっていると思われる。しかし、民間債務処理の問題が大きな課題として残っている。民間債務の大部分は銀行再建庁(IBRA)の管理下に入ったが、その資産の売却もあまり進んでおらず、クィック調整大臣から日本企業にも買い取りに参加して欲しいとの要請があった。当方からはインドネシア側に対して、既存の投資案件の中に、政権交代により、前政権のコミットメントが守られていないなどの事例があり、日本からの新規投資を行なうには、こうした問題が解決されインドネシアの投資環境としての信任が高まることが前提かつ重要であると伝えた。これらの点については、6月に開催される日本・インドネシア合同経済委員会においてフォローアップを行なう予定である。

  7. 熊谷副会長説明要旨
    (シンガポール、マレーシア訪問について)
  8. シンガポールでは、ゴー首相、リー副首相、ヨー経済開発庁長官に表敬訪問するとともに、第3回日本・シンガポール・ビジネス・カウンシルを開催した。すべての表敬訪問先で、インドネシアの経済情勢、特に民間債務処理問題への懸念が表明された。シンガポールは、5億ドルの資金を用意し、IBRAの資産を買い取るに当り、誰が買い取る場合でも、5〜10%の資本参加を行なうプログラムを打ち出している。また、インドネシアのバタム島における付加価値税導入の問題について、投資先としてのインドネシアの信頼を損ない投資の障害になるという点で双方の認識が一致した。さらに、シンガポールとの自由貿易協定も、シンガポール滞在中の重要な議題としてすべての訪問先で取り上げられた。
    マレーシアでは、マルチメディア・スーパー・コリドーのプトラジャヤに新しくできた首相府でマハティール首相と懇談し、その後、先端技術都市サイバージャヤを視察した。マハティール首相からは、マレーシア経済について、為替の固定相場制や短期資本規制などの効果により経済が順調な回復を遂げているとの説明があった。

  9. 荒木副会長説明要旨
    (全体的印象)
  10. 訪問した4ヵ国とも経済が大きく回復しているとの印象を持った。通貨・金融危機後、これだけ早く景気が回復した背景には、潜在成長力が高いということがあると思う。危機に見舞われた当初は、各国は、IMFのメニューを強いられ苦労した。アジアは欧米流の考え方で画一的に割り切れるわけではなく、アジア流の考え方で問題の処理にあたる必要があると思う。free, fair, global, openなどの法則をアジア全般にそのまま適用できるわけではない。
    今回のミッションを通して、アジア各国の日本に対する期待が高いということを実感した。今後も引続き日本が中心となり、東南アジア経済を支えていく必要がある。
    円の国際化については、われわれ企業自らが円の利用拡大に努めることが重要である。私も、当社がインドネシアやマレーシアから購入しているLNGの代金を円で支払うことができないか燃料部門に調べてもらっている。


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