経団連くりっぷ No.125 (2000年5月25日)

日本カナダ経済委員会(委員長 奥田 碩氏)/4月21日

新たな段階を迎えた日加関係

−第23回日本カナダ経済会議結団式を開催


日本カナダ経済委員会では、第23回日本カナダ経済会議(5月15日〜16日、於:経団連会館他)の結団式を開催し、外務省の渋谷實 北米審議官より、日加政治・経済について、通産省の今野秀洋 通商政策局長よりわが国の次期WTO交渉への取組み等について説明をきいた。またエドワーズ駐日カナダ大使より、第23回会議への期待等について挨拶があった。

  1. 渋谷審議官説明要旨
    1. 日加関係
    2. 基本的に良好であり、懸案事項は少ない。カナダはG8の一員として、多くの国際機関でも独自の役割を果たしており、日本とも協力できる面が多い。昨年9月のクレティエン首相が率いる大型経済ミッション、チーム・カナダの来日を契機に、現在、新しい日加関係の模索が始まっている。本年は21世紀に向けた新たな日加関係の方向を探り具体化する1年になると思う。その意味で、今年の日本カナダ経済人会議の成果には外務省としても注目している。
      経済関係は、基本的に良好だが、1999年のカナダの対日輸出は日本の景気後退等により停滞基調で、日本側統計で対前年比-11.2%、カナダ側統計でも-3.5%と減少している。カナダの貿易における日本のシェアは低いが、輸出入とも米国につぐ第2位の貿易相手国であることから、日本への輸出低迷は懸念材料である。

    3. カナダの内政
    4. クレティエン首相は1993年10月の就任以来、雇用創出や財政赤字削減に積極的に取組み、1998年度予算では単年度で27年振りの均衡予算を成立させた。クレティエン首相率いる自由党は1997年6月の総選挙でも安定過半数を維持し、同党への支持は2000年3月で47%となっている。現行の任期は2002年までだが、クレティエン首相は第三期目を目指しており、来年6月までに総選挙を実施する旨を今年3月に行なわれた自由党党大会で表明している。

    5. 経済情勢
    6. 経済の拡大基調は継続しており、1998年度のGDP成長率は4.2%と予想を上回る伸びを記録した。その背景には、好調な米国経済に支えられた外需の伸びに加えて、民間設備投資の拡大、順調な個人消費等の内需の堅調さがあげられる。
      財政は経済の拡大に支えられて順調であり、1998年度以降、均衡財政を実現し、2000年予算も財政収入が当初支出予算額を56億ドル程度上回る見通しである。黒字分56億ドルは福祉を中心とした歳出増に20億ドル、減税に36億ドルを充当する予定であり、1999年度黒字分のほとんどを福祉財源にあてていることと比較して、福祉から経済優先の姿勢に転換したともいえる。
      カナダ経済は、内需の堅調さはあるものの、今後の見通しは不透明であり、好調な米国経済に依存する構造に変化はない。但し、カナダ側には単一市場への依存に不安感もありこれがチーム・カナダの各国への派遣にも繁がっている。

  2. 今野局長説明要旨
    1. チーム・カナダのフォロー・アップ
    2. 9月のチーム・カナダ訪日は成功だった。フォロー・アップについてはジェトロがカナダ各地でフォローアップセミナーを開催している他、個別のIT商品の発掘のために11名の専門家をカナダに派遣して延べ100社以上のカナダ企業と面談している。こうした作業を通じて明らかになったのは、第一に、マルチメディア、暗号、通信などの分野のアメリカ製品には、多くのカナダ製品が組み込まれていること、またカナダのハイテク企業には中小企業が多いことから、日本企業との間のビジネス仲介サービスの果たす役割が大きいことである。これは今後の日加経済関係を考える上で、重要な視座である。

    3. 次期WTO交渉について
    4. 昨年11月のシアトル閣僚会議の失敗後、主要国の間で新ラウンドの立ち上げに向けた努力はなされているものの、そのめどはたっていない。
      第1の争点は、労働と貿易の問題をめぐる米国と途上国の対立である。クリントン大統領が児童労働の禁止等のコア労働基準をWTOに組み込み、それを守らないところには制裁を課すと発言したことが途上国の大きな反発を買ったが、その後も米国の軌道修正は進んでいない。
      第2の争点は、米国とEU間の環境問題をめぐる対立である。環境規制を重視するEUと、環境に名をかりた保護主義を警戒する米国との調整は水面下で進んでいるが解決には至っていない。
      第3の争点はアンチ・ダンピング問題である。多くの国がWTOにおけるアンチ・ダンピング規律の強化を支持しているが、米国は反対しており、現在、話し合いを軌道に乗せるための話し合いがもたれている。

    5. 自由貿易協定について
    6. 日本の通商政策の基本は、自由、多角、無差別という自由貿易体制の維持であり、これを離れて日本の生存や世界の発展はない。しかし、その枠組みの中で、通商政策へのアプローチを多様化することはできるのではないか。世界的にもEU、NAFTA、メルコスール、AFTAなどの地域統合の動きが加速する中にあって、自由貿易協定に入っていないのは日本、韓国、中国のみである。その韓国も、昨年からチリと自由貿易協定締結に向けた交渉を開始している。
      こうした中でわが国においても新たな動きが見られる。
      まず、韓国との間では、日本のアジア経済研究所と韓国のKIEP(対外経済政策研究院)の間で自由貿易協定の可能性について検討が進められている。
      シンガポールとの間でも、両国政府関係者や学識経験者から成る共同研究チームが研究を始めている。双方とも熱心で、サービスなども含めた新しい自由貿易協定について検討を進めており、今年の11月を目標に方向をまとめようとしている。
      以上が具体的動きのある二ヵ国であるが、メキシコとの間でもジェトロとの間で純粋民間ベースで研究を行なっている。
      カナダやオーストラリアからもこれらの動きについては関心が寄せされている。カナダとの間では、日加経済の現状にそくした経済緊密化策を積極的に進めていくことが重要と考えている。


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