経団連くりっぷ No.125 (2000年5月25日)

貿易投資委員会 総合政策部会(部会長 團野廣一氏)/4月27日

WTO体制と地域経済統合

−大妻女子大学 渡邊教授よりきく


総合政策部会では、わが国が自由貿易協定に取り組むうえでの諸問題について、民間経済界の立場から具体的な検討を行なうこととなった。この一環として、WTO体制下における地域経済統合の意義について大妻女子大学の渡邊頼純教授より説明をきいた。

○ 渡邊教授説明要旨

  1. 地域経済統合の現状
  2. シアトル閣僚会議が挫折するなど、WTOのマルチ交渉に向けたモメンタムが失われつつある。他方、1990年の時点で効力を有していた地域取極は40件に過ぎなかったのに対して、1998年央段階で効力を有する地域取極は102件であり、最近数年間、地域統合へ向けた動きが顕著である。

  3. 地域経済統合のメリット・デメリット
  4. 地域経済統合のメリットとしては、貿易創造効果、域内の競争促進効果、域内の所得増大に伴う域外からの輸入増大効果があげられる。このほか、自由貿易協定交渉等、地域統合推進の過程における経験がWTOというマルチの場で活かされるという効果も期待できる。現に、NAFTAはサービス貿易、知的所有権等、GATT体制下ではカバーされなかった分野をも含んでおり、それがWTOに与えた効果は無視できない。
    地域統合のデメリットとしては、最も効率的な域外の供給国からの輸入に代って効率性の面で劣る域内の供給国からの輸入が増える貿易転換効果、域内を優先することに伴う競争阻害効果が考えられる。

  5. わが国と自由貿易協定
  6. わが国は現在、韓国、シンガポール、メキシコ、カナダ等との自由貿易協定締結の可能性を模索しているが、その際、WTOとの整合性を確保していくことが重要である。すなわち、WTO協定の付属書であるGATT、GATS(サービス貿易協定)が定めるとおり、地域経済統合が第三国との貿易障壁を引き上げないよう細心の注意を払う必要がある。
    戦後、GATT、WTOの下、経済を繁栄させてきたわが国にとっては、今後ともマルチ重視の立場を堅持すべきであり、真にWTOに整合的な自由貿易協定によって、マルチの通商体制を維持し、かつ、補完していくことが求められている。対象としては、オーストラリア、ニュージーランドを含めた東アジア諸国経済共同体を形成することが有益であろう。他方、日本、米国、EUの「三極」の間で自由貿易協定を締結することは、WTO体制を「骨抜き」にする恐れがあり、望ましくない。三極間についてはあくまでもWTOの場で自由化交渉を推進していくことが重要である。


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