国土・住宅政策委員会 地方振興部会(部会長 阿比留 雄氏)/4月27日
地方振興部会では、わが国観光政策のあり方をめぐって具体的な検討を行なっている。今般、(財)日本地域開発センターは、主催する「地域振興問題懇談会」において、各界の専門家の議論を踏まえ「地域振興問題諸方策のまとめと提言(案)」をとりまとめ、今後の地域振興のための基本戦略とともに、今後のまちづくりにおける観光振興のあり方を提示した。そこで、懇談会座長としてとりまとめの任に当たった慶應義塾大学大学院の伊藤滋教授を招き、同提言の概要等について説明をきくとともに意見交換を行なった。
「地域振興問題懇談会」は各界の有識者男女7名ずつによって構成され、これまで合計6回、各地域の今後の地域振興の方向性を検討してきた。そこで、女性の視点が色濃く反映された結果、「多彩」や「楽しさ」など男性中心の会議ではなかなか出てこない発想が生まれ、地域づくりにおける基本理念として「多彩な個人が、生きがいを持って、楽しく生活できる地域づくり」が提言に示された。
このキャッチフレーズを支えるのは、
地域と個人の関わり合いにおいては、まつり、伝統、文化遺産など地域が持つ独自の資源を地元の人々が再認識することによって、その地域に対して愛着やこだわりを持ち、自分たちの生活を楽しむことが可能となる。また同時に、他の地域に対しての比較優位性が高まるとともに、活気ある地域社会の構築や魅力ある地域の創造、さらには観光振興にもつながっていく。こうした具体的な地域の例として、岸和田市のだんじり、徳島市の阿波踊りなどが挙げられよう。
また、都市住民の農村に対する見方・意識の変化に伴い、地方・農村に対する新しい感覚および動きが生じていることに注目したい。東京生まれ、東京育ちの人間の増加によって、「田舎」がなくなることで帰省という概念が消滅する可能性がある。それにあいまって、都市住民が地方や田舎での生活を体験したいという需要が少なからず生まれつつある。大分県安心院町などではグリーンツーリズム(農村民泊)に取り組むことで、こうしたニーズを巧みに取り込み、地元民も一緒に楽しみながら相互交流を図っており、今後ともさまざまな展開が期待されている。
加えて、女性ファーマーなど新たな地域活動の担い手を支援していくことが重要である。地方都市周辺や農村などにおいて従来の農業を継続することは、減反や輸入自由化、後継者不足などの問題があり、ますます困難になっている。しかしながら、その一方で、これから新しく農業従事を目指す若者や、結婚などを機に他地域から移り住む女性などもいる。
このように、地域にとってフレッシュな人材が働き、生活しやすい環境を創出するために、村の論理や家のしきたりばかりを重視するのではなく、相互のコミュニケーションを図ったり、就農学校のような体制を整備していくことが必要となろう。
地域の役に立ち、自らも楽しんで取り組める身近な活動が、持続可能な地域づくりにつながる。例えば、大分県大山町などでは、朝市への個人出荷・販売や集落グループによる地域の農産物を活かした特産品の生産加工など、暮らしの中で、自らができることを楽しみながら活動する人が増加している。高齢者などに何らかの地域活動に参加してもらうとともに、気軽に参加できる雰囲気を醸成する仕組みづくりが必要である。
また、最近注目されている地域の取組みとして、愛媛県関前村などで導入されている「タイムダラー制度」など、いわゆるエコマネーの存在が挙げられる。農村をはじめ高齢化が進行している地域において、福祉政策は今後ますます重要性を増すと思われるが、財政負担が重くのしかかる自治体にとって、NPOと結びついたエコマネーの導入は、地域政策の新兵器になるのではないかと期待している。
地域における情報化・人材育成の拠点づくりとして、公・民・産・学の中継拠点となる地域大学の立地は有効であると考えられる。2001年4月に発足する東北公益文科大学(酒田市)などのように、新しい地域への貢献を視野に入れつつ、地域における多様な人材の育成、生涯教育や地域文化の継承など地域に開かれた大学、また、地域の民間セクターや産業につながる最先端技術教育拠点の立地、活用を推進していくことが今後ますます必要となろう。