経団連くりっぷ No.126 (2000年6月8日)

貿易投資委員会 総合政策部会(部会長 團野廣一氏)/5月10日

日本は、多くの国との間で自由貿易協定を推進すべき

−早稲田大学 浦田教授よりきく


総合政策部会では、民間産業界の立場から、わが国が自由貿易協定を推進していくうえでの課題について具体的な検討を行なっている。この一環として、早稲田大学の浦田秀次郎教授に自由貿易協定の経済効果などを中心に話をきいた。浦田教授は、日本ができるだけ多くの国と、すべての分野に関して自由貿易協定を推進することが経済的に望ましいと述べた。

○ 浦田教授説明要旨

  1. 自由貿易協定の拡大の背景
  2. 地域統合は、1990年代に入って急増した。その理由は、第1は欧州共同体の深化と拡大に対抗し米州、アジア等で地域統合を模索する動きが強まったこと、第2はGATT/WTOによる多角的な自由化の進捗の遅れが地域レベルでの自由化に対するインセンティブになったこと、第3は発展途上国諸国による経済自由化の手段の一つとして地域統合が選択されたこと、等による。
    特に最近の傾向として、経済の発展段階の異なる国同士の連携や異なる地域統合間の連携が進められていることが挙げられる。

  3. 意義と問題点
  4. 大きな意義としては、

    1. WTOによる多国間の自由化の補完、
    2. 他地域のブロック化に対する牽制、
    3. 域内の競争の活発化等を通じた経済の活性化、
    4. 政治、社会、文化等の非経済的な関係の緊密化、
    5. 相手国市場の開放によるビジネス・チャンスの拡大、
    等がある。
    他方で、問題点としては、第1に地域統合を例外的に認める条件を規定しているGATT24条の解釈が曖昧であり、保護主義の隠れ蓑になりかねないこと、第2にWTOによる多角的自由化へのインセンティブが低下すること、等が挙げられる。特にGATT24条の明確化が求められる。

  5. 経済効果
  6. 域内国に対してプラスの効果をもたらす経済効果としては、貿易創造効果、市場拡大効果、競争促進効果、域内の経済厚生向上効果等がある。他方、マイナスの効果をもたらすものとして貿易転換効果がある。これは、地域統合の結果、効率的な域外からの輸入を域内からの輸入に転換することで生じる効果である。自由貿易協定を経済学的に考えた場合、貿易転換効果をいかに最小化するかが、最も重要な問題である。

  7. 日本と自由貿易協定
  8. シュミレーションでは、日本が、対象分野を限定せず、なるべく多くの国と自由貿易協定を締結することが、日本および世界経済にとって最も望ましいという結果が出た。
    短期的には、シンガポールなど日本と経済構造が比較的似た国と地域統合を進めていくという考えもあり得る。しかし長期的には、WTOとの整合性を確保しつつ、日本と産業構造が異なる国との協定も推進していくべきである。同時に、WTOやAPECによる多角的自由化も進めていくべきである。


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