経団連くりっぷ No.126 (2000年6月8日)

国土・住宅政策委員会地方振興部会(部会長 阿比留 雄氏)/5月11〜12日

自然環境を活かし、外国人観光客の来訪促進に取り組む東北地方を視察


当地方振興部会では、地域の活性化に果たす観光の役割の重要性に鑑み、日本各地における観光振興の取組みを視察するとともに地元関係者との懇談会を重ねている。5月11日から12日にかけては「東北懇談会」を現地にて開催し、仙台城跡や蔵王山頂の「お釜」など東北の特色ある観光資源を視察するとともに、東北経済連合会の村松巌副会長をはじめ地元関係者との懇談会を通じて、東北観光の現状や諸課題について意見交換を行なった。

  1. 東北地方の観光振興方策
    1. 東北地域への外国人観光客の来訪促進
      (村松 巌 東経連副会長説明)
    2. 東北地域においては、2002年ワールドカップ大会が宮城・新潟を会場として開催されるのに前後して、2001年の秋田におけるワールドゲームズ、2003年の青森における冬季アジア大会の開催が予定されている。東経連では、これら21世紀初頭に東北地域で開催される国際スポーツイベントを東北地域の国際観光の振興を図る絶好の契機として捉え、1998年12月、東北地域国際観光戦略検討委員会、東北地域国際観光検討専門委員会を設置し、外国人観光客の東北地域への誘致策について検討を重ねてきた。
      観光は、雇用創出効果による地域の活性化に大きく寄与する産業として期待されているが、東北地域への訪日外国人は外国人全入国者数の4〜5%程度であり、東北地域の域内総生産(全国の8%)、人口比率(全国の10%)に鑑みてもその割合は少なく、大交流時代を迎えようとしている今日、地域の活性化対策として外国人観光客の誘致促進を図ることが重要である。
      東北地域への外国人観光客の来訪を促進するに当たっては、(1)海外における東北の知名度不足、(2)受入体制の未整備などの課題を解消しなければならない。このため、各県および北東北・南東北の国際観光テーマ地区推進協議会双方での適切な役割分担のもと、情報発信の質・量の増大、受入体制を整備していくことが求められる。

    3. 仙台空港の国際化促進
      (手島典男 仙台ターミナルビル相談役説明)
    4. 仙台空港は戦後、全日空による仙台〜東京定期便によって運航を開始した後、東日本の拠点空港として発展を遂げてきた。東北新幹線供用によって利用客が減少したが、1990年にアシアナ航空の仙台〜ソウル旅客定期便の運航開始に伴い、国内外の5社6路線が国際定期路線として運行されるに至っている。また、3,000m滑走路供用開始(1998年)、運用時間の13時間への延長(1999年)など、仙台空港が真の国際空港として発展を遂げることによって、東北全体の国際化をより進展させることが期待される。利用客の拡大を図るべく、地道な誘致活動を続けていくことが重要である。

  2. 東北の観光まちづくりについて
    1. 佐藤潤 ホテル佐勘社長説明
    2. 東北地域における観光は、東北自動車道などのインフラ整備および旧北海道東北開発公庫による旅館施設等への融資によって劇的に変化した。1991年、東北・上越新幹線が開業し、東京への乗り入れが可能になったことも大きな追い風となった。また、後発の観光地として地道に歩んできた結果、東北地域はバブル崩壊の影響が他地域に比して微少であった。
      しかし、道庁のもとで一体的に観光に取り組むことのできる北海道などに比べると、7県ばらばらな東北地域は今後、より広域的に観光に取り組んでいかなければならない。例えば、花巻に入ってから、十和田湖を周り、仙台あるいは福島から帰る、という観光パターンに見られるように旅行の形態が多様化している中、海外や九州など広域的に観光行政に取り組む地域のケースを勉強しながら、まちづくりに注力していかなければならない。

    3. 宮原育子 宮城大学助教授説明
    4. 東北新幹線の開通は、他地域との交流という観点からは大きな改善をもたらしたが、反面、日帰り圏の拡大によって宿泊観光に打撃を与えた面も否めない。
      東北では近年、外来者向けのまちづくりに対する反省から、ハコモノやイベントをやめて地域資源を活かしたまちづくりを行なおうとする傾向が強くなっている。歴史や文化など東北ならではの豊かな観光資源を活用するとともに、「東北に来るとのんびりしてほっとする」という印象を与え、高齢者向けに健康を意識したヘルス・ツーリズムを展開することが重要である。
      さらに、新しい東北観光を実現するためには、道路による観光を重視し、例えば5,000円で乗り放題の高速道路周遊パスを開発することも一考に値する。さらに、行政と旅行業界の組織間、観光・農業・医療などの産業間などで、観光を軸とした広域的・多層的な連携を図り、「みちのく観光大陸」という新たな地域イメージの確立に努めることが重要である。

  3. 東北観光と「健康院」の意義
    (大川健嗣 山形大学教授説明)
  4. 東北では全国の他地域に比して高齢化が進んでおり、医療・介護や高齢者への対応などが大きな課題となっている。
    「健康院」とは「病院」の反対概念を意味する造語であり、高齢者などが多自然居住地域を訪れ、豊かな自然、文化などに接し、地域の人々と交流しながら、心身の健康を維持するための「場」を提供する仕組みとして東経連が構想しているものである。
    こうした理念のもと健康院を促進することによって、生き生きした高齢者と生き生きした地域社会の創出、多自然居住地域として自然共存型社会の条件を活かした地域づくり、都市と農村の交流による中山間地域の活性化などが期待される。

  5. 経団連側からの具体的提案

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