経団連くりっぷ No.127 (2000年6月22日)

IT革命推進フォーラム/6月1日

IT革命推進に向け情報通信インフラに関わる制度改革を


経団連では、IT革命の一層の推進を図るとともに、情報通信制度改革のあり方について掘り下げた議論を行なう観点から、約500名の参加者を得て、標記フォーラムを開催した。

  1. 藤井義弘 前情報通信委員長挨拶
  2. 経済の新生、国民生活の質的向上にはITの積極的な利用が不可欠である。情報通信インフラに係わる制度の改革により、情報通信市場の競争が活発となり、通信料金が下がれば、情報通信の需要が爆発的に増える。企業が迅速に市場ニーズに対応できるよう、早急に制度改革に着手すべきである。

  3. 基調講演
    1. 「デジタルエコノミーの行方と日本の課題」
      −山下義通 21世紀産業戦略研究所社長説明要旨
    2. 現在は、知性的、体系的、合理的な知識(サイエンス)が富を生み、知識により経済活動が活発化するという、「知識の時代」である。ITは知識の時代における基本的サイエンスである。また、ITは社会構造、企業などの組織構造を根本的に変える破壊的な側面を持ち合わせている。
      日本と米国との間で大きな格差が生じている。グローバル化が進展する中で、米国に追い付き、追い越すためには、あらゆる手段を講ずるべきである。行政、企業などの組織の徹底的な効率化を進めるべきである。同時に、効率性、競争性を阻害する制度や慣習を幅広く見直す必要がある。
      ITは人間の幸せを向上させるものである。米国だけでは人間を幸せにする社会はできないものであり、日本がインターネットに関して安全性を高めるなど出番はあるはずである。本物のITのマーケットを創出すれば、日本経済も再生されるだろう。

    3. 「情報通信法制の再構築に向けて」
      −大野龍一 情報通信委員会通信・放送政策部会長説明要旨
    4. 現行の情報通信法制度は、インターネット時代や通信・放送の融合時代への対応、あるいは通信市場の競争促進を図るよう、必ずしも機能していない。ITの能力を国民が十分享受できるよう、情報通信ネットワークに係わる制度改革を行なうべきである。
      そこで、経団連では「IT革命推進に向けた情報通信法制の再構築に関する第一次提言」をとりまとめた。提言では、情報通信に関する法律を利用者利益の増大、自由かつ公正な競争の確保を目的とする「新情報通信法」へ再構築することを訴えている。
      今後、経団連では制度改革の実現に向けてさらに掘り下げて検討し、更なる提言をとりまとめる予定である。

  4. 「IT革命がもたらすインパクト〜日本経済の今後の方向」
    −堺屋太一 経済企画庁長官説明要旨
  5. 近代の技術の流れは、大型化、大量化、高速化から、1980年代に、多様化、ソフト化、省資源化へと変わった。さらに1990年代に入ると、パソコン技術を利用した、ヒューマンウェアである情報技術(IT)が生まれ、人類の文明の方向が大きく変わってきている。例えばインターネットの普及はあらゆる人が不特定多数に情報発信できるようになり、共同作業をも可能とした。
    IT革命の一番の根幹はヒューマンウェアにある。ヒューマンウェアは修得が遅れると、差が乗数的に広がってしまう可能性がある。コンテンツづくりの組織、人材、習慣をいかに早く作りだすかが課題である。また、通信と放送の融合に対応した仕組みを整備しなければならない。今後3年以内にIT社会を完成させることが必要であり、財政、政府の施策などを集中させるべきである。

  6. パネルディスカッション:「21世紀に相応しい情報通信法制のあり方」
    (司会:島田精一 情報通信委員会情報化部会長)
    1. 鶴田俊正 専修大学経済学部教授
      1. 電気通信の制度改革は、競争的な市場の創出、ユニバーサルサービスの確保、独占・寡占の弊害是正、不可欠設備の公平な利用、通信・放送の融合に対応した法整備を図る必要がある。電気通信事業法は時代にそぐわず、見直しが不可欠である。NTT法に関しても、NTTの自己責任原則に徹した経営を可能とするようにすべきだが、不可欠設備に関する公的規制と独禁法ルールの適用は必要である。ユニバーサル・サービスは音声電話に限定し、新規参入者を含めて資金拠出する形で確保すべきである。

      2. 法制は簡素、透明なものとし、事後規制型へと転換すべきである。企業が自己責任原則に基づき、自由な行動ができるようにすることを原則とすべきである。また、電気通信分野でもはっきりと独禁法ルールを適用すべきである。公取と規制官庁とが協力して取引ルール・指針を作るべきである。

    2. 竹内英次郎 ネットリサーチ代表
      1. 通信・放送の融合の問題は状況に応じて制度を付け加えてきたため、全体が見通せなくなっている。デジタル化により通信・放送の技術が共通になっている。法制度は、彼岸か此岸を見て考えるべきであり、将来の観点から作り直すべきである。

      2. 電気通信事業法は設備に着目した規制に偏っている。過剰に設備を規制をする必要はなくなっている。事業法はやめて、商法や民放など一般法で対応すべきである。組織に関する法律も、やめるべきである。ただし、NTT法を簡単に改正すればよいというわけではない。国家機関から一般の事業体になるにあたって、分離分割という外形的解決でない「通過儀礼」が必要である。

    3. 村上輝康 野村総合研究所常務取締役
      1. 企業は急激に変化するビジネス環境に対応している。制度改革にあたっても、いつまでに何をするのかというスピードの視点を取り入れるべきである。

      2. 今後、インターネット・データセンターや、ASPなど、ITの周辺産業の伸びが期待されている。ITの関連産業が発展するよう、通信料金メニューの多様化が必要である。

      3. 新しい事業がどの法令に準拠するかがわかるよう、関連法制に関するコールセンターの設置とともに、法令解釈に関しては証券取引で設けられているノー・アクション・レターという仕組みを導入する必要がある。さらに、ADR(Alternative Dispute Resolution)という紛争解決手段を設けるべきである。


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