経団連くりっぷ No.127 (2000年6月22日)

第122回関西会員懇談会/6月7日

21世紀の経済新生に向けた方策に関して
関西地区会員と懇談


「21世紀の経済新生に向けて」をテーマに標記懇談会が開催された。当日は今井会長、辻・前田・岸・森下・香西の各副会長が出席し、関西地区における約160名の経団連会員の参加の下、闊達な意見交換が行なわれた。また、懇談会に先立ち、大阪府立産業技術総合研究所を訪問し、産学官連携のもと人材育成事業などに取り組む状況を視察した。

  1. 関西会員からの発言
    1. 浦上敏臣 住友生命保険会長
    2. IT「革命」の言葉通り、世界経済は第二次産業革命ともいうべき変化の渦中にある。
      この中で、わが国は現在、活力を欠いており、国民全体に広がる将来への不安感を払拭することが肝要である。消費の増大、景気回復は構造改革やIT革命を促進するインフラにもなるという意味で、産業構造改革と景気回復は根っ子でつながっている。
      社会保障制度と国家財政の展望に対する経団連の意欲的な提言には注目している。関西経済界としても、これからの少子化時代に相応しい「負担と給付」のあり方について、マクロの視点からグランドデザインを描いてみたいと考えている。
      関経連の社会保障委員会を担当する立場からは、来年からスタートする確定拠出型年金制度の原案にやや失望している。従来の適格年金制度では企業拠出分は全て非課税であるが、新制度では企業と個人を合わせた拠出額全体が非課税枠の制限を受けるため、最大の眼目である確定給付型からの移行に大きな制約がある。
      これらの問題点を改め、企業の活力の維持およびわが国経済社会の構造改革につながる年金制度の見直しを引き続き働きかけていくべきである。

    3. 浅田和男 西日本電信電話社長
    4. IT革命の進展によってビジネスの仕組みが大いに変化しており、顧客の要望やニーズに対応していくためには、規制緩和が不可欠なものとなっている。
      わが国においてすべての法制はインターネットの台頭を意識しないでつくられている。法制度を全て見直すには相当の時間を要すると考えられる。そこで重要となるのは、裁量行政の撤廃である。例えば、新規事業について役所に相談に行っても、窓口となる課長補佐クラスが理解して、許認可を判断できるようになるまで1年半から2年かかる。しかも、役所の人事異動によって担当官が頻繁に交替するため、ドッグイヤーと言われる情報通信の変化のスピードに合致しない。
      IT革命の流れに乗って、料金の低廉化などの競争を促進させるためにも、裁量行政をはじめ規制の撤廃に向けて、産業界が一体となって取り組む必要がある。

    5. 辻晴雄 シャープ相談役
    6. 2000年度のわが国エレクトロニクス産業は、(1) IT革命に向けた商品製造の環境整備、(2) 最先端商品製造に不可欠な半導体や液晶などデバイスの需要向上により、近年にない伸びが期待できる。輸出の側面からは、貿易立国であるわが国のITは、デバイスを重視しなければならない。
      懸念されるのは、欧米・アジア諸国が半導体や液晶などの強化に国を挙げて戦略的に取り組んでいるのに対して、わが国では1985年の日米半導体協定以来、国が民間の活動に関与するのを避けてきたことである。例えば、液晶は日本が世界に先駆けて実用化した重要なデバイスであるが、国の産業分類ではその他部品であり、半導体などに比べて償却期間などの面で冷遇されている。技術や産業の実態を政治家、官僚に深く理解してもらうことも肝要である。また、これからの技術開発は産学官連携による大がかりなプロジェクトになることが予想され、経団連には、相互のコミュニケーション、情報の共有などに一層のリーダーシップをお願いしたい。

    7. 藤山朗 藤沢薬品工業会長
    8. 医薬品企業の競争力は研究開発力が全てである。一つの製品を生み出すには、平均15年の歳月、一品目当たり500億円の研究開発費が必要である。また、一つの製品はある疾患にのみ用いられるので、営業努力と関係なく市場は限定される。発売した製品10個の内7個は患者数が少なく研究開発費の回収もできない、という極めてハイリスクなビジネスである。
      日本の医薬品産業が創出した製品も世界の医療に貢献しているが、企業規模、国際性という点では立ち遅れている。しかし、競争力を持つ産業に育つだけの基盤はできており、典型的な省資源・知識集約型産業として、21世紀の戦略産業の一つとすべく努力している。より進んだ医薬品を使うことは、最も費用対効果の優れた医療手段である。経団連においても、ゲノムなどバイオテクノロジー基盤研究への投資促進などに一層の支援をお願いしたい。

    9. 自由懇談
    10. 秋山喜久氏(関西電力会長)より「財政再建はタイミングが問題である。産業界としても公共事業依存でなく、PFIを含め民の力を発揮していく必要がある」との発言があった。また、渡辺滉氏(三和銀行相談役)より「それぞれの経済団体が要望してきたことについては、政権が代わっても、実現に向けた継続的な働きかけが肝要である」との意見が表明された。

  2. 経団連会長・副会長発言
  3. 前田副会長より「21世紀型リーディング産業・分野の創出」に関する経団連の取組みが紹介された後、岸副会長より「IT革命推進に向けた取組み」について発言がなされた。また、森下副会長が「アジア経済の再構築とWTO次期交渉に向けた取組み」について説明し、辻副会長は「環境問題への対応」について、経団連の活動に対する理解を求めた。そして、香西新副会長からは「連携を通じた関西の活性化」について関西側の取組みを分析・評価した。
    最後に今井会長より、関西におけるさまざまな取組みを踏まえつつ、経団連として経営革新やニューインダストリーの創出をはじめ国・地方の財政制度など、わが国全般に亘る構造改革に積極的に取り組んでいくとの総括を以って結びとした。


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