経団連くりっぷ No.127 (2000年6月22日)

アジア開発銀行との共催セミナー/5月31日

アジア経済の回復には構造改革の継続が不可欠


上島副会長

経団連では、5月31日、アジア開発銀行(ADB)と共催し、アジア主要国経済の概況ならびにメコン河流域開発(GMS)の近況に関するセミナーを開催した。セミナーでは、上島副会長の開会挨拶に続き、ADBのシン・ミョンホ西地域担当副総裁から「アジアの開発途上経済は、1999年には平均6%以上の成長を達成し、世界経済の成長の主たる貢献者に回帰した。ADBはこれら経済が引き続き改革を加速化させ、完了させることを支援していく。官民のパートナーシップにより、アジアの持続的な経済回復を促進していくことができる」との挨拶があった。当日は、100名を超す出席者を得、活発な意見交換が行なわれた。

  1. アジア開発指標
    1. イ・ジョンス経済開発センター・チーフエコノミスト
      1. 概観:
        アジアの開発途上経済は、1999年には平均6%以上の成長を達成し、予想を上回る速さで回復している。これら急成長をもたらした要因は、第1に、財政金融政策が緩和されたこと、第2に米国経済の拡大、第3に構造改革により投資家の信頼が回復されたこと等があげられる。長期的な観点からも、アジア経済の回復は持続可能であり楽観視している。しかし、懸念材料もないことはない。最大の懸念は、各国政府が目先の成長に満足し、改革のスピードを緩めるのではないかということである。

      2. 金融・企業部門の構造改革:
        改革は進展しているが、依然多くの課題や未解決の問題が残されている。例えば、銀行が抱える大量の不良債権問題、企業債務処理の遅延、預金者、債権者への無制限の保証がもたらす財政赤字問題、さらには新たな法・規制の実施を担う人材不足等である。

    2. 中国、インドネシア経済概況と見通し
      −デヴィット・グリーン東局主任研究員
      1. 中国:
        アジア危機の影響を受けず、1998年、1999年と7.8%、7.1%の経済成長を達成した。1999年は、前年に比し、輸出の伸びが鈍化した。また、対内直接投資も落ち込んだ。2000年は、工業・建設部門の生産が伸び悩み、GDP成長率は6.5%と予測される。この10年の成長は、貧困の削減をもたらし、一日1ドル以下で生活する貧困層は農村人口の4%にまで削減された。その一方、都市部の貧困層が5〜6%と悪化している。
        ADBの対中支援戦略は、第1に国営企業改革、安定したマクロ経済運営、法制度整備の強化、第2に内陸部の開発支援、第3に環境保護の3つを柱にしている。1999年には13億ドルの対中ローンを承認した。2000年度のローン・プロジェクトの64%は、運輸・通信分野に配分される予定である。

      2. インドネシア:
        1998年には−13.2%のGDP成長率であったが、1999年には0.2%成長と緩やかではあるが確固たる回復を示した。経済回復を支えた主要因は、民間支出、公的支出の増加と、非石油製品輸出の増加である。米価ならびに為替の安定が、インフレを抑制した。その一方で、危機により貧困が悪化し、全人口の27%が貧困線以下の水準での生活を余儀なくされている。
        ADBの対インドネシア支援は、

        1. 金融・企業部門改革の更なる推進、
        2. 社会的セーフティネットの強化、
        3. ADBのオペレーティングの効率化、
        等に焦点を当てている。特に、融資の60〜80%を占める不良債権の処理がインドネシア経済の最大の問題であり、そのためには金融改革と企業改革とが同時平行して進められなければならない。

    3. タイ、ベトナム経済概況ならびに見通し
      −ブラーム・プラカシュ西局主任研究員
      1. タイ:
        1997年に危機に見舞われたタイ経済は、1998年の−10.4%のGDP成長率から、1999年には4.1%と急速な回復をとげた。成長を牽引したのは、製造業分野における成長と政府の刺激策の結果による内需の拡大である。製造業の中でも特に、自動車・同部品の生産が急成長を遂げ、同国アセアン域内の生産拠点として台頭してきた。また、観光業も成長を見せた。
        今後の主要課題は、

        1. 改革の継続、
        2. 国内消費の加速化、
        3. 不良債権の削減、
        4. 民間投資の誘致、
        5. 製造業の稼働率アップ、
        などである。中長期的には、高熟練労働力の育成を通じ、付加価値の高い産業構造へと転化していくことが肝要である。

      2. ベトナム:
        1999年で4.4%のGDP成長を達成したが、危機前の1997年に比較するとこの2年の成長率は半減している。農業部門は5%の成長を達成したものの、工業・サービス部門が低迷している。2年連続の低成長により、失業率は上昇し、市場経済化のための改革が失速した感が否めない。外国直接投資が二年連続減少し、財政赤字がGDP比2%まで悪化したが、他方、予測した以上に輸出は好調で、22.3%の成長を見せている。2000年は5%、2001年には6%のGDP成長が見込まれている。
        ベトナムの主要課題は、

        1. 歳出入削減の悪循環からの脱却、
        2. 貧困削減、
        3. 都市部と農村部の格差是正、
        4. 国営企業改革、民間部門の育成、
        である。

  2. メコン河流域開発(GMS)に関する最近の動向と展望
    −多田羅 徹西局担当室長
  3. アジア危機後のGMSプログラムは、限られた資金の中で、優先順位を明確にしてプロジェクトを推進している。1992年のプログラム開始からこれまでに、10件のプロジェクトが完了または実施中であり、投資総額は約10億ドルにのぼる(ADBファイナンスが7億7,200万ドル、協調融資により2億3,400万ドル)。例えばエネルギー部門では、ラオスのトゥン・ヒンブン水力発電プロジェクト(発電量210MW)が完了し、ラオス経済、外貨獲得に貢献している。運輸部門では、プノンペン・ホーチミン高速道路プロジェクトに関し、1998年12月にカンボジア、ベトナムへの貸付が承認された。
    今後は、東西回廊(タイ〜ラオス〜ベトナム)等の主要輸送網を活用して道路沿いの貿易、投資などを連結させるべく経済回廊構想を推進していく。通信部門ではGMS域内を結ぶ基本回線網の建設が急務であり、総コスト1億6,300万ドルの内、ADBは2003年までに5,000万ドル、2005年までに9,640万ドルの貸付を行なう予定である。


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