経団連くりっぷ No.127 (2000年6月22日)

産業技術委員会(委員長 金井 務氏)/5月17日

科学技術政策を巡る最近の動向


現在、科学技術の振興を一層強力に図るため、次期科学技術基本計画の検討が進められている。また、国際的に通用する技術者資格の確立を目指した技術士法の改正も今国会で成立した。そこで、産業技術委員会では、技術士制度の活性化について、越智謙二科学技術庁科学技術振興局長、桑原洋技術士審議会会長より、科学技術基本計画やライフサイエンスを巡る最近の動向について、科学技術庁の青江茂科学技術政策局長、小中元秀審議官よりそれぞれ説明をきくとともに懇談を行なった。

  1. 越智科学技術庁局長説明要旨
    1. 技術士制度の概要
    2. 技術士制度は、高等の専門的応用能力をもち、科学技術に関する計画、設計等の業務を行なう者に対し、技術士資格を付与する名称独占の資格である。19の技術部門毎に国家試験を実施し、登録を行なっている。

    3. 技術士制度改善に関する基本的考え方
    4. 近年、APEC等の技術者資格の国際的な相互承認が急速に具体化し、国際的な整合性の確保が必要となっている。
      特に、質が高く、十分な数の技術者を確保するために、技術者教育、資格付与、継続教育に至る一貫した整合性のあるシステムの構築が重要である。
      また、科学技術の信頼性確保等のため、技術者に職業倫理の徹底をはかることも大切である。

    5. 技術士法改正の概要
    6. 本年4月に行なわれた技術士法の改正の概要としては、まず、外国の技術士資格を有する者に、わが国の技術士資格を認定するための措置を行なった。
      また、技術士試験の改善を行ない、新たに、大臣指定の教育課程修了者に対する第一次試験免除等の項目を追加するとともに、技術士の継続的な資質向上の責務、技術士の公益確保の責務を付与した。

    7. 法改正以外の主要な改善事項
    8. 省令改正により、総合的な技術監理部門を新設し、人材育成をはかり、また、日本技術士会や学協会等との連携の下、継続教育に関する具体的な検討を行なった。さらに、出題方法等試験の実施方法の改善をはかった。

    9. 今後の主要な課題
    10. 今後、技術士制度の普及拡大と活用の促進が必要である。また、技術者資格の国際的相互承認の拡大が必要である。

  2. 桑原技術士審議会会長説明要旨
    1. 技術士制度の活性化
    2. 技術者資格の国際的整合性、および技術力強化の観点から、技術士制度の活性化が不可欠であり、産学官の協力をお願いしたい。

    3. 民間における技術士制度の活性化方策
    4. 技術士資格を企業の技術力表示の指標として考え、技術士の活用状況について公表すること、また、企業内の技術監査や安全監査の実施における技術士の配置、さらに、技術士資格を社内教育カリキュラムに位置付け、資格取得者を適切に処遇すること等が必要である。加えて、日本技術者教育認定機構(JABEE)が認定した学科等の卒業生に対する企業の理解も必要である。

    5. 国における活性化方策
    6. 重要プロジェクトに関する安全確保、環境保全等における技術士参画の条件付け、および製品、サービス等の調達や各種申請等において企業の技術力評価の指標として技術士の配置を活用すること等が求められる。

    7. 大学、学会における行動例
    8. JABEEの認定を早期に実施するとともに、技術士制度、特に技術士資格取得者の行なう継続的な能力開発に対する支援、強化を行なうことが求められる。

  3. 青江科学技術庁局長説明要旨
    1. 次期科学技術基本計画の策定
    2. 本年3月の総理大臣の諮問を受け、科学技術会議において、次期科学技術基本計画の策定作業が開始された。その内容は、科学技術を取り巻く現状認識、総合戦略、および目標に向けて科学技術政策として具体的に講ずべき施策からなる。

    3. 総合戦略
    4. 科学技術振興のため、基礎研究の推進から研究開発の成果の活用・定着まで全体を視野に入れた政策展開をはかる。また、基礎研究の強化を重視するとともに、研究者の発意と自主性を尊重したマネージメントの充実を図る。
      国家的・社会的課題に対応する研究開発については知的資産の拡大、社会的効果、経済的効果の3つの観点から選択し、重点的に資源投入を行なう。さらに、産業化の促進など研究開発の成果の経済社会への還元を促進する。
      その際、あらゆる面で競争原理を積極的に導入するとともに、個人の能力を最大限発揮させるよう配慮する。

    5. 科学技術システムの改革
    6. 総合戦略の展開をはかるため、

      1. 競争的資金の拡充、間接経費(オーバーヘッド)制度の導入等、
      2. 若手研究者の研究環境の改革、
      3. 兼業拡大と裁量労働制の導入、技術者の育成等の開かれた研究開発システムと産学官連携の改革、
      等の方策を実施する。

  4. 小中科学技術庁審議官説明要旨
    1. 生命倫理に関する取組み
    2. ヒトゲノム研究について、個人遺伝情報の保護、インフォームドコンセントのあり方等について生命倫理委員会において審議中である。

    3. ヒトゲノム塩基配列の解読
    4. 5月8日に理化学研究所、慶應大が主体となり、ドイツと共同でDNA塩基配列解析を進めていた21番染色体の完全解読を完了した。
      ヒトゲノムの全塩基配列については、6月中にもラフな解析を完成させ、2003年頃までに解読を完了する予定である。

    5. 国際的な動向
    6. 5月2日に米国で日米合同高級委員会(日本側議長:中曽根科学技術庁長官)が開催され、

      1. ポストゲノム時代において、今後、世界の研究者が協力・分担して、取り組むことが必要なタンパク質立体構造・機能解析を日米が中心となって進めること、
      2. 人類の共通の財産であるヒトゲノムの基礎的データの公開について、国際的なコンセンサスを形成すること、
      が合意された。


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