経団連くりっぷ No.127 (2000年6月22日)

経済法規委員会 経済法規専門部会(部会長 西川元啓 氏)/6月1日

国際倒産法制の整備が進行中

−属地主義から国際主義への転換を実現


法制審議会倒産法制部会では、「国際倒産法制に関する要綱案」をとりまとめるべく検討を進めている。経団連では、諸外国の法制との整合性の確保を求めてきているが、法務省が要綱案のパブリックコメントを実施したのを機に、経済法規専門部会に法務省民事局の深山卓也参事官、吉田徹検事を招き、要綱案の概要について説明をきくとともに意見交換を行なった。

  1. 法務省側説明要旨
    1. 属地主義からの転換
    2. 日本の破産法をはじめとする倒産五法は、外国で開始された倒産手続の効力は日本に及ばず、また日本で開始された倒産手続の効力が海外に及ばないという厳格な属地主義をとってきた。わが国をめぐる情勢は、立法時(破産法は大正11年制定)とは大きく異なり、保有資産の一部が外国にある会社、債権者など利害関係者が外国にいる会社が一般的となっている。
      こうした会社が倒産手続を取る際には、資産の把握を図り、債権者間の平等を図ること、個別的な権利行使を制限することなどが必要だが、これらは万国共通の理念である。日本では属地主義をとってきたために、日本の更生会社の船舶が海外で差し押さえられたり、倒産手続中の外国会社の日本支店の預金について払い戻しの可否が問題となったりといった不都合を生じてきた。そこで、法制審議会では、わが国倒産法制を属地主義から国際主義へと転換し、日本で始まった倒産手続の効力が海外に及び、また海外で始まった手続の効力が日本に及ぶこととし、さらに同時に存在しうる複数の手続を調整するルールを定めるべく、検討を開始した。現在、審議会では、秋の臨時国会に関連法案の上程を目指して、作業を進めている。これら法案は1997年の国連総会において採択されたUNCITRAL(国連国際商取引法委員会)モデル法を尊重して立法されるものであり、米国、EUでも同様の法整備が進められているものである。

    3. 国際倒産法制に関する要綱案
    4. 法制審議会では、これまでの議論をもとに「国際倒産法制に関する要綱案(担当者素案)」をとりまとめ、パブリックコメントに付している。
      同素案は、後述3.の国際並行倒産に関する基本的な考え方を採った上で、

      1. 外国で開始された手続の効力を日本に及ぼす「外国倒産処理手続の承認手続(仮称)」を創設すること、
      2. 日本で開始された手続の効力を外国に及ぼす破産法、会社更生法の一部改正をすること、
      を柱としている。同素案の内容は以下のとおりである。

    5. 複数の倒産処理手続間のルールづくり
    6. 属地主義を国際主義へ転換させるとともに、同一の債務者に関する複数の倒産処理手続が開始できる「国際並行倒産」を許容する。その上で、国内で複数の手続が同時に進行することは認めず、次のように、複数の手続相互の優劣基準を定める。

      1. 主手続(債務者が法人等の場合、主たる事務所がある国で申し立てられた手続)である国内倒産処理手続は、従手続(主手続でない倒産処理手続)である外国倒産処理手続に優先する。
      2. 従手続である国内倒産処理手続も、従手続である外国倒産処理手続に優先する。
      3. 主手続である外国倒産処理手続と従手続である国内倒産処理手続との間においては、原則として、国内倒産処理手続が優先するものとするが、必要があると認めるときは、外国倒産処理手続を優先させることができる。
      4. 主手続である外国倒産処理手続は、従手続である外国倒産処理手続に優先する。
      5. 従手続である複数の外国倒産処理手続相互の間においては、原則として、先に承認されたものが優先するものとするが、先に承認されたものでないものを承認することが債権者の一般の利益に適合するときは、その手続が優先するものとする。

    7. 外国倒産処理手続の承認手続
    8. 外国手続の日本国内における効力、それを承認するための手続については、倒産五法にそれぞれ規定を置くのではなく、受け皿を一本化することとし、すべての外国手続を適用対象とする「外国倒産処理手続の承認手続(仮称)」の制度を設ける。
      この制度に基づき、外国管財人は、本手続に係る事件を専属的に管轄する東京地裁に、手続承認の申立てを行なう。裁判所は、日本に営業所等を有する債務者について、当該手続を承認することが日本における公の秩序に反するなどの棄却事由に当たる場合を除き、これを承認する。ただし、承認された手続については、手続開始国において認められている効力をそのまま日本国内に及ぼすことはできない。日本法独自の観点から固有の援助・協力措置を行なう。具体的には、申立てまたは職権に基づき、

      1. 財産保全のための処分、
      2. 強制執行等を禁止する処分、
      3. 管理命令、
      4. 保全管理命令、
      の4つのメニューの中から、承認に伴って必要な措置を裁判所が講ずることとなる。
      また、外国管財人等が日本国内において否認権を行使できるかどうかについては規定を設けない。

  2. 質疑応答(要旨)
  3. 経団連側:
    外国倒産処理手続が申し立てられている国に日本の法人の子会社がある場合には、日本で承認を得ることは可能か。
    法務省側:
    承認手続は外国手続の債務者と同一法人格のものが日本国内において保有する財産について援助のための措置等を講じる手続であり、親子会社であっても別人格の法人は対象としていない。ただし、外国手続における債務者の営業所、事務所等が日本にあれば承認を得ることができる。

    経団連側:
    債権者が日本において外国手続の承認を得ることと、日本で直接、倒産処理手続を開始することとの相違はどこか。
    法務省側:
    外国での手続とは別に日本で倒産手続を開始することはできるが、外国手続の承認を得れば、同一の管財人が複数国にまたがる債務者の資産を一元的に管理出来るという利点がある。ただし、否認権の行使の可否などについては解釈にゆだねている面もあり、事案によっていずれの手段を用いるか、選択されることになろう。

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