2000年版通商白書に関する懇談会(司会 團野廣一 貿易投資委員会 総合政策部会長)/6月1日
5月に発表された2000年版通商白書の概要について、通産省通商政策局の川本明 通商調査室長より説明をきくとともに懇談した。
52回目となる今回の白書の特徴は、地域統合の必要性を積極的に評価し、わが国通商政策の重要課題として位置づけていることである。わが国は従来より、GATT・WTO体制の下、多国間の貿易自由化の利益を享受している。白書が地域統合の必要性を強調しているといっても、決してWTO体制からの離脱を意味するものではない。NAFTA、EU等各国が地域統合を推進する中、わが国もWTO体制を補完するツールの一つとして地域統合を検討し、重層的な通商体制を構築していくべきだということである。
1990年代に入り経済のグローバル化が一層加速し、投資・貿易の相互依存度が高まるなか、途上国をいかにしてグローバル・エコノミーに取り込んでいくかが世界全体の経済厚生の拡大の鍵となっている。
投資・貿易の自由化は特に途上国に大きな利益をもたらす。全ての国が財貿易を自由化した場合(鉱工業関税の50%削減を仮定)、途上国のGDPを0.58%押し上げる効果が見込まれる。これは先進国から途上国へのODAがもたらす効果に匹敵する。また、投資の自由化は先進国からの技術移転を喚起し、途上国の経済成長に大きく寄与する。
先進国にとっても貿易の自由化は大きなメリットとなる。特に農産品の自由化がわが国経済に与える効果は大きい。
また、貿易自由化の一方で、近年アンチダンピング措置の発動が増加している。アンチダンピング措置によって貿易自由化の効果が失われないよう、アンチダンピング措置の濫用防止に向けた取組みが必要である。
地域統合については、域内の貿易障壁撤廃によって域外の効率的生産国からの輸入が域内からの輸入に転換するというマイナス効果が指摘されているが、現実にはそのような問題は殆ど生じない。むしろ、競争の促進による域内市場の拡大、生産性の向上といった経済厚生を増大する効果が見込まれる。また、地域統合に至るまでの政治的対話を通じて、制度のハーモナイゼーションのメリットをお互いに享受することもできる。地域統合はかつてのブロック経済の再来ではなく、貿易自由化推進のための連携の一形態と捉えるべきであろう。
わが国は、企業の直接投資、輸出入を通じて東アジア諸国と相互依存関係にある(同地域からの輸入の約3割が日本企業の逆輸入)。わが国としても、東アジア地域を含め地域統合の拡大・深化について検討していく必要があろう。