経団連くりっぷ No.128 (2000年7月13日)

経団連意見書/6月20日

「21世紀の海洋のグランドデザイン 〜わが国200海里水域における 海洋開発ネットワークの構築〜」を建議


わが国の産業技術力強化のために、本年4月に国家産業技術戦略がとりまとめられ、海洋関連についても、エネルギー、食料、造船等各分野でとりまとめが行なわれた。そこで、今般、海洋開発推進委員会では、上記各戦略の内容を発展させるとともに、21世紀の海洋開発に関する国家的な総合計画について具体的提言を行なうべく、標記提言をとりまとめ、6月20日の理事会の承認を得て、政府・与党等関係方面に建議した。以下はその概要である。

  1. 海洋のグランドデザインの必要性
    1. わが国の200海里水域の特質
    2. わが国の国土面積は約38万km2であるが、その周辺に、世界第6位の約447万km2にも及ぶ広大な200海里排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)を有している。また、この200海里水域は流氷海域たるオホーツク海から世界屈指のサンゴ礁に恵まれた南方海域まで、特性の異なる世界でも独特の海域で構成されている。

    3. 海洋のグランドデザインの策定
    4. わが国の200海里排他的経済水域(EEZ)の総合的な開発・利用・保全に関する国としての計画は、これまで策定されてこなかった。そこで、国家戦略の一環として、海洋に関する科学技術の振興、海洋に関する教育の振興および人材・研究者の育成、海洋関連産業の活性化を通じた経済の発展、さらには国際協力、国際貢献にも資する海洋のグランドデザインを策定する必要がある。

  2. グランドデザイン作成にあたっての基本的考え方
    1. 調査・利用・保全の3つの視点
    2. 「21世紀の海洋のグランドデザイン」は、日本の豊かな海の再生・創造を目指すものであり、基本方針として、『200海里の海を豊かにすること』を掲げるべきである。その際、以下の3つの視点のバランスのとれたものとすべきである。

      1. 「海をよく知る」ことである。広大なそれぞれの海域の自然条件を十分に調査、観測する必要がある。
      2. 「海を賢く利用する」ことである。有限な資源については、その資源量の正確な把握に努め、できるだけ温存をはかる一方、再生可能な持続的資源活用に重点を置くべきである。
      3. 「海を守る」ことである。地球規模での環境問題は深刻な状況にあり、環境との共生、海の再生・創造という視点が不可欠である。

    3. 海洋空間の総合的活用
    4. 海洋の総合開発という観点から、海洋の持つポテンシャルを多面的に引き出せるよう、海面、海中、海底を3次元的にバランス良く活用することが必要である。

    5. 産・官・学及び関係省庁の連携
    6. グランドデザインの具体化をはかるためには、社会的ニーズを十分に踏まえた上で、海洋科学技術の創造、移転、産業化の全過程を視野に入れた、産・官・学、および関係省庁の一体的な取組みが必要である。

    7. 沿岸域の活用
    8. 200海里水域とあわせて、沿岸域を豊かにすることも必要であり、従来の陸からの視点のみでなく、海からの視点も加え、沿岸域の総合的な管理により、開発・利用・保全を三位一体的に推進すべきである。

  3. 200海里水域における海洋開発の進むべき方向
    1. 持続的資源の活用
    2. 魚類などの海洋生物資源、深層水などの海洋エネルギー資源といった海洋が包含する無尽蔵で再生可能な持続的資源については、できる限り重点的かつ有効に活用すべきである。

    3. 有限資源の活用
    4. マンガン団塊、コバルトリッチクラスト、メタンハイドレートなどの有限な海底鉱物資源については、当面は、200海里水域内での鉱物資源の把握と開発利用に向けた試験研究活動、開発技術の向上に積極的に取り組むとともに、次世代における商業的資源開発・利用を目指すべきである。

    5. 海洋観測・空間利用
    6. 200海里水域を海域の特性に応じて活用していくために、海域を3次元的に調査モニタリングするとともに、200海里水域の有効活用を行なうため、浮体構造物などの海洋空間利用技術を活用すべきである。

  4. 200海里水域の海洋開発ネットワークの構築
    1. 日本の200海里水域の海域特性
    2. 例えば、オホーツク海周辺は流氷海域であり、地球温暖化調査研究、水産食糧生産海域として重要である。日本海には、海洋生物資源の培養に有効な冷温で溶存酸素量の大きい良質の深層水が存在する。沖縄沖東シナ海は、海流海域として海洋観測上重要であると同時に、多くの魚類の自然産卵海域である。中部太平洋は、水産資源に有用な黒潮の流域であると同時に、海洋観測上重要な海域であり、海洋鉱物資源も存在する。

    3. 200海里水域の海洋開発ネットワークの構築
    4. 以上を踏まえ、海洋に関する体系的なナショナルプロジェクトとして、海域の特性に応じて関係省庁が連携し、生物資源活用、海洋エネルギー開発、調査モニタリング等を行なう海洋開発ネットワークの構築に長期的に取り組むべきである。

    5. 海域別調査・資源開発基地構想例
    6. 日本の周辺海域の特性に応じた機能を有する構想として現段階で考えられるものは以下の通りである。

      1. オホーツク海(流氷海域)の着底式流氷観測・資源調査基地
      2. 北部日本海(東北沖)の人工大和堆と浮体式水産基地
      3. 西部日本海(山陰沖)の海底牧場と浮体式水産基地
      4. 北部太平洋(三陸沖)の浮体式海洋研究観測基地
      5. 東シナ海(沖縄沖)の自然エネルギー活用型浮体式大規模環境観測・水産基地
      6. 中部太平洋(本州近接海域)の浮体式海底資源調査基地
      7. 中部太平洋(遠隔離島周辺海域)の国際海洋研究観測基地群

  5. 洋上基地のパイロット・プロジェクトの推進
    1. パイロットプロジェクトの選定
    2. 海洋開発ネットワークの構築を段階的に実現させていくためには、直ちにフィージビリティスタディに着手し、優先すべきパイロットプロジェクトを選定する必要がある。
      なお、このパイロットプロジェクトには、周辺海域の海底・海中・海面にわたる三次元的な海洋調査観測のローカル・ネットワーク機能を付与することも望まれる。

    3. パイロットプロジェクトの具体化
    4. 優先すべきパイロットプロジェクトが選定されたならば、関係省庁の連携、および産官学の英知の結集の下に、要素技術の研究・実証を経て、具体的な設計、建設を進め、そのパイロットプロジェクトが10年以内に実現されることが望まれる。


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