経団連くりっぷ No.128 (2000年7月13日)

国土・住宅政策委員会 地方振興部会(部会長 阿比留 雄氏)/6月14日

わが国観光政策において学の果たすべき役割とは

−立教大学岡本観光学部長よりきく


地方振興部会では、わが国観光政策のあり方に関する検討を重ねている。観光振興を図る上からは、観光の基本ともいうべきホスピタリティを有する人材の育成が欠かせない。
そこで、4年制大学としてわが国初の観光学科を設置して以来、観光に従事する多くの人材を輩出し、観光研究について常に先駆的な役割を担ってきた立教大学観光学部の岡本伸之学部長を招き、観光政策において学が果たすべき役割、21世紀の観光振興に資する人材の育成策などについて説明をきくとともに意見交換を行なった。

  1. 岡本部長説明要旨
    1. 観光文化教育のあり方
    2. 立教大学における観光文化教育の理念は、「観光=楽しみを目的とする旅行」との認識から出発している。同時に、観光は異文化交流をもたらす行為でもあり、観光客の眼差しを意識することによって「僕のお家も景色の一つ」という地域の公共心が育まれる契機となる。
      観光の語源は中国の古典「易経」の「観国之光。利用賓于王」(国の光を観すもって王の賓たるに利し)に由来しており、地域が光り輝くことによって繁栄し、外部から人が集まるという思想に基づいている。世界を見回しても、経済的・社会的に発展する国はさまざまな人材を受け入れる多様性・柔軟性を備えており、この意味からも観光振興の基本であるホスピタリティを発揮することが極めて重要である。
      しかるに、わが国では「他者に対する思いやり」というホスピタリティの本質が理解されていないのではないか。わが国においては観光地を標榜しているところでさえ、案内板やインフォーメーションセンターがなく、行きたいところに行けない、という国際的に非常識な事態が散見される。

    3. 立教大学観光学部について
    4. 観光研究とは自然、社会、人間が関わる学際研究領域であると考えており、その意味で、立教大学観光学部は人間としての生き方を考え探求する場である。
      本学の沿革は、戦後間もない1946年に常設の公開講座としてホテル講座が開設されたことを嚆矢とする。そして、1967年にわが国の4年制大学としては初めて社会学部に「観光学科」が設置され、1998年には学則定員230人とする観光学部が誕生した。併せて設置された大学院観光研究科には現在65名の院生が在籍しており、本年3月にわが国初めて観光学博士の学位が授与された。
      観光学部のカリキュラムは学際研究分野としての性格を重視し、(1)観光文化コース、(2)観光地計画コース、(3)観光経営コースの三つの履修モデルコースに大別されている。(1)においては、特に文化交流現象としての観光に視点を置いて、観光の背景にある理論や哲学を学際的に探求する。(2)は、観光振興による地域づくり・地域興しを行なう観光地をプランニングする知識を習得させる。(3)では、観光関連の職業に必須の旅行業、宿泊業、交通業などの経営、情報管理、財務、投資計画などについて学ぶことを目的としている。
      また、コミュニケーションスキルの向上に加え、フィールドスタディーを重視しており、観光学部が立地している埼玉県新座市と近接している川越市と提携し、川越の観光振興のあり方などを研究し、問題解決能力の涵養を図っている。現在、学部では教養教育を重視し、大学院では研究者の育成を目的としているが、今後は高度な職業教育のため再来年にもビジネススクールを設置する準備を進めている。併せて、社会人を対象としたホスピタリティマネジメント専攻を開設する予定である。

    5. 21世紀の新しい観光振興に向けた人材育成
    6. 生産した財やサービスを運ぶことのできる農業分野と異なり、「地域を資源化する」観光は実体が見えず分かりにくい面がある。しかし、他の産業分野と同様、観光においても今後の方策の基本を研究開発と人材育成に据えなければならない。
      現在、観光関連の学科あるいはコースを有する高校は全国で35校ある。立教大学観光学部に設置されている観光研究所では、内地留学制度の一環として、こうした高校生を委託生として受け入れ、人材育成を図っている。また、観光関連教育機関の協議会を設置するとともに、海外の観光関連教育機関や学会とも提携し、情報交換等に注力している。

    7. 今後の具体的課題
    8. 今後、本学のセンターオブエクセレンスとしての役割を強化し、少なくともアジア地域においては観光研究のセンターとしての機能を果たせるようにしたい。その一環として、2004年に予定されているアジア太平洋観光学会の第10回大会を立教大学で主催したいと考えている。この開催に当たって、現在、他の18の大学などにも呼びかけ、連携して会議の成功に結び付けようと努めている。

  2. 意見交換(要旨)
  3. 経団連側:
    観光大国である米国においては、観光の人材をどのように育成しているのか。
    岡本学部長:
    米国では2年制のコミュニティカレッジにおいて観光関連の職業訓練を行ない、接客やマネジメントのみならず調理実習を必修としていることが特徴である。

    経団連側:
    わが国でも漸く観光に対する理解が深まりつつあるが、今後、更なる世論喚起を図るために何をすべきか。
    岡本学部長:
    年間2週間以上の連続長期休暇を取れないのは、先進国では日本だけである。自らを見つめ直すとともに、家族の絆を強化する機会を提供する観光の素晴らしさを国民が広範に共感できるように、何よりも休暇取得のシステムづくりを急がなければならない。

    経団連側:
    国際観光を振興する上でネックとなる語学のバリアをどう克服すべきか。
    岡本学部長:
    観光学部では「英語の立教」の再建を期すべく、「語学」ではなく「語力」を養い、「駅前留学」を掲げる民間の英会話学校などとも競争できるだけのプログラムを導入するとともに、同時通訳者の養成にも取り組んでいる。


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