経団連くりっぷ No.129 (2000年7月27日)

第566回常任理事会/7月4日

転換期を迎えた企業会計

−中地 日本公認会計士協会長よりきく


近年、わが国では、国際水準に見合った新たな会計基準の整備が進められている。また、わが国の会計・監査制度に対する国際的信頼の向上と国際会計基準策定にあたっての発言力強化にとって、会計基準設定主体の改革が重要な課題となっている。そこで、日本公認会計士協会の中地 宏会長より、転換期を迎えた企業会計について説明をきいた。

  1. 国際会計基準委員会の動き
  2. 国際会計基準委員会(IASC)では、各国会計制度のハーモナイゼーションに取り組んできたが、それには相当な時間を要し、資本の迅速な動きに対応しきれない。そこで、これまで各国会計基準の比較可能性を高める目的で策定されたコア基準を世界各国で通用する単一基準に発展させることになった。このようなアプローチの転換に伴い、IASCは会計士協会代表をメンバーとする体制から各国の会計基準設定主体を中心とする体制へ組織変更することになった。

  3. わが国の動き
    1. 一方、わが国では、金融機関の不良債権や企業の過剰債務などの問題が顕在化し、会計・監査制度の見直しを促すことになった。また、わが国企業の財務諸表に対する不信の声が海外からもきこえるようになった。
      こうした中、自民党金融問題調査会に企業会計に関する小委員会が設置され、わが国会計・監査制度の信頼回復に向けて取り組むべき課題として会計基準設定主体の改革を取りあげた。また、本年3月、日本公認会計士協会も、IASCの組織変更を念頭に会計基準設定主体を強化すべく、米国の財務会計基準審議会(FASB)をモデルとする民間機関への移行を提言した。

    2. これらの動きと並行して、組織変更後の新IASCにおいて、基準の策定および各国基準との調整にあたる理事会メンバーの選任ならびに資金調達の役割を担う評議員会に、わが国から代表を派遣すべく働きかけを行なった。その結果、本年5月、福間三井物産副社長(経団連金融制度委員会資本市場部会長)と田近デロイト・トゥシュ・トーマツ共同議長の2名が指名された。わが国の実態を踏まえた基準が策定されるよう、少なくとも1名は理事会に派遣できるようにしたい。

  4. わが国会計・監査制度のあり方
  5. 以上の国内外の動きを背景に本年4月に大蔵省金融企画局長の私的懇談会として「企業会計基準設定主体のあり方に関する懇談会」が設置され、さる6月29日に民間を主体とした新しい枠組みへの移行に関する論点を整理、公表した。企業が自己責任に基づき活力ある活動を展開するには、内外の経済環境の変化に迅速かつ効率的に対応できる会計・監査制度を確立しなければならない。そのためには、会計基準設定主体の民間への移行はもとより、新しい設定主体を機能させるため、米国証券取引委員会(SEC)に相当する強力な規制当局が必要である。


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