経団連くりっぷ No.129 (2000年7月27日)

経団連意見書/7月18日

「自由貿易協定の積極的な推進を望む
〜通商政策の新たな展開に向けて〜」
を建議


貿易投資委員会(委員長:槙原稔氏)において、WTOと並ぶ通商政策の新たな柱として、わが国が自由貿易協定に積極的に取り組むよう求めるべく、標記提言をとりまとめ、7月18日の理事会の承認を得て、政府・与党等関係方面に建議した。以下はその概要である。

  1. 急速な広がりを見せる自由貿易協定
  2. 1990年代に入り、北米自由貿易協定(NAFTA)、ASEAN自由貿易地域(AFTA)、南米南部共同市場(メルコスール)の形成、EUの拡大など、自由貿易協定が世界的に急速な広がりを見せており、その数は120にのぼる。
    米国は、2005年を目標に、南北米大陸に跨る米州自由貿易圏(FTAA)の設立を目指している。他方、本年3月にメキシコとの間で自由貿易協定を締結したEUは、更にメルコスールとの締結交渉を進めている。このように、諸外国において自由貿易協定は、WTOと並ぶ重要な通商政策の一つと位置づけられており、国際的な通商システムは、多国間主義と地域主義が共存する時代となっている。
    しかし、わが国はこれまで自由貿易協定に取り組んでこなかったため、企業が国際的な事業活動を行なう上で、事業機会を逸したり、既に他国と自由貿易協定を締結している国とのビジネスにおいて、競争上きわめて不利な立場に置かれるといった事態が生じている。
    わが国は、通商政策の新たな柱として、自由貿易協定を積極的に活用していく必要がある。

  3. 自由貿易協定の意義
  4. 自由貿易協定では、域内の物品の貿易に係る関税及び非関税障壁の撤廃にとどまらず、サービス貿易、投資、政府調達、税関協力等、WTOで取り上げてこなかった分野をも含め、高度な自由化やルール作りを行なうことができる。
    わが国が自由貿易協定に取り組むべき主な理由は、以下の四点である。

    1. モノ、サービス、資本、人等の自由で円滑な流れを促進し、相手国・地域とのビジネス機会を拡大する重要なツールとなる。
    2. わが国企業が、既に他の国と自由貿易協定を締結している国とビジネスを行なう際に蒙っている、貿易・投資上の不利益を解消できる。
    3. 貿易・投資の自由化や相手国との規制制度の調和等を通じ、国内の経済構造改革を促す。また、域内の競争を促進し、国内産業の国際競争力の強化を促す。
    4. WTOではなかなか実現できないような貿易・投資の自由化やルール作りを、地域レベルで進めることができる。

  5. 自由貿易協定を推進する上での課題
  6. わが国が自由貿易協定を積極的に推進していく上で、以下の点に留意する必要がある。

    1. 重要なWTO体制の維持・強化
      引き続きWTOによる多角的な通商体制に強くコミットし、包括的な新ラウンド立ち上げに向け最大限の努力をはらう必要がある。また、わが国が自由貿易協定を締結する際には、WTO協定との整合性を十分に確保すべきである。

    2. 国内産業に対する配慮
      国内産業は、自助努力を基本として競争力の強化に努めるべきである。そのためには、わが国の高コスト構造を是正する必要がある。他方で、急激な自由化等により深刻な影響を蒙る場合には、

      1. 第三国からの真性の迂回輸入を防止できるような原産地規則を定める、
      2. 域内セーフガード措置の発動を可能にする、
      3. 自由化までの10年間の移行期間を利用し、当該産業の競争力の強化を図る、
      4. どうしても自由化できない品目を例外的に自由化の対象外とする、
      といったWTO協定で認められる範囲内での現実的な対応策を講じる必要がある。

  7. 包括的な自由貿易協定の推進
  8. 自由貿易協定は、企業の貿易・投資活動の円滑な推進に資すべく、広範な分野を含む包括的な協定であることが望ましい。具体的には、

    1. 物品及びサービス貿易の自由化、
    2. 投資ルールの整備、
    3. 基準・認証の統一化、相互承認の推進、
    4. アンチ・ダンピング等の貿易ルールの規律強化、
    5. 政府調達市場の開放、
    6. 知的財産権の保護、
    7. ビジネス関係者の移動の円滑化、
    8. 競争政策や電子商取引等のルールの整備、
    9. 迅速な紛争処理制度の整備、
    等が考えられる。

  9. 優先的対象国・地域
    1. 経済関係が相互補完的であること、
    2. 高関税や煩雑な規制の撤廃による大きな効果が期待できること、
    3. 他国との自由貿易協定締結により、わが国企業が不利な立場に置かれていること、
    等の判断基準により優先的な締結国を検討していく必要がある。
    具体的には、
    1. 地理的に近く、今後の更なる経済関係の強化が期待できるアジア諸国、
    2. 既に網の目のように自由貿易協定が締結されており、同地域におけるわが国企業の事業上の不利益を早急に解消していく必要がある米州諸国、
    が考えられる。また、現在、シンガポール、韓国、メキシコ、チリ、カナダ等との間で、公式及び非公式に検討が進んでいることを歓迎し、積極的に評価する。

  10. 政治的なリーダーシップが必要
  11. 自由貿易協定は、一部の産業にとって痛みを伴うことがあっても、国全体としての利益を念頭におきながら、検討を行なっていく必要がある。その実現に向け、強い政治的なリーダーシップが求められる。


くりっぷ No.129 目次日本語のホームページ