経団連くりっぷ No.129 (2000年7月27日)

経済政策委員会企画部会(部会長 小井戸雅彦氏)/7月10日

今後の財政改革の方向

−東京大学 井堀教授よりきく


経済政策委員会企画部会では、東京大学の井堀利宏教授を招き、今後四半世紀における財政運営のあり方について説明をきいた。

○ 井堀教授説明要旨

  1. わが国のプライマリーバランス(公債金収入以外の歳入―国債費以外の歳入)は、現在、先進国中で最も悪い状態にある。プライマリーバランスの赤字は「単年度の政策的経費が税収を上回り、過去の債務返済に資金を充てられない状況」を意味しており、仮にこの状態が長期的に続くならば、財政は破綻する。ただし、歳入・歳出規模とも、中期的には国民が主体的に決めうる問題であり、今後20〜30年間にわたって現在のような財政事情が続くとは考えにくい。

  2. わが国財政にとっての好材料は、歳出規模が極端には大きくない点である。現在の財政悪化の主因は、歳入(税負担)が構造的に少ないことであり、今後多少の増税を行なっても、マクロ経済への影響はそれほど大きくならないだろう。
    もっとも、今後も抜本的な社会保障制度改革が実施されない場合は、高齢化に伴う社会保障支出の急増は避けられず、増税も大規模なものとせざるを得なくなる。

  3. 1990年代における米国の財政収支改善を引き合いに「日本でも、景気さえ回復すれば財政は好転する」といわれるが、米国財政の改善は、実際には国防費の減少や裁量的な増税によるところが大きく、自然増収の寄与は4分の1程度だろう。また日本は、経済成長に伴う所得格差の拡大が容認されにくい社会であり、「高額所得者の増加によって、累進税率の下で税収が大幅に増える」といったメカニズムが働きにくい点にも留意が必要である。したがって、今後の自然増収には大きな期待はできず、ある程度の裁量的増税は避けられないだろう。

  4. 今後の改革の方向としては、まず財政制度に対する不透明感・不信感を取り除くための情報公開、特に社会保障支出をはじめとする「内在する財政悪化要因」に関する情報の開示が必要となる。
    「受益と負担の関係是正」も、重要な課題である。とりわけ、地方自治体における財政赤字増加は、受益と負担の間に存在するギャップによるところが大きいため、自治体の自主財源を確保する一方で、地方交付税や国庫支出金を通じた財源配分メカニズムを抜本的に見直していく必要がある。

  5. こうした方向にたったうえで、財政再建の具体的なシナリオを直ちに提示すべきである。まず10年程度の間に、プライマリーバランスの黒字転換を図り、過去の債務を返済する体制を整える必要がある(ただし、その時々の経済状況を踏まえた弾力的な対応も必要)。その際、ある程度の増税は避けられないため、納税者番号制度の導入、益税対策、歳出効率化など国民の理解を得るための方策も、あわせて必要となる。


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