経団連くりっぷ No.130 (2000年8月10日)

国際協力委員会(委員長 上島重二氏)/7月24日

途上国支援をめぐる国際的潮流

−外務省 荒木経済協力局審議官よりきく


国際協力委員会では、外務省の荒木喜代志経済協力局審議官を招き、九州・沖縄サミットでの議論を中心とした途上国支援をめぐる国際的潮流について説明をきいた。当日は、途上国に対する民間専門家派遣の推進、人材育成への協力、文化交流の促進などを柱とする2000年度の国際協力委員会の活動方針について討議した。併せて、提言「新たな貿易保険制度に対するわれわれの考え」(案)の審議も行なった。(6頁参照

○ 荒木審議官説明要旨

  1. 九州・沖縄サミット全体の評価
  2. 7月21日から23日にわたり開催された九州・沖縄サミットでは、一層の繁栄、人々の心の安寧、世界の安定を達成するために何をすべきかという観点から活発な意見交換が行なわれた。21世紀に向けて人類が直面する諸課題のプライオリティにつき、各国首脳に共通認識を醸成することができた点で特に意義があった。また、グローバル化が急速に進む中、非G8諸国、国際機関、NGO等とのパートナーシップの強化が重要との観点から、サミット前に発展途上国の首脳や国際機関の代表等と直接対話を行なう機会を設ける等さまざまな機会を通じて対話を図ったことが各国首脳から高く評価され、今後ともこうした努力を強化していくべきとの認識で一致した。経済協力に関するG8コミュニケの内容は、今後の途上国支援の国際的な流れを示すものとして重要である。

  3. ITについて
  4. ITについては、21世紀の繁栄の鍵と位置づけ、デジタル・オポチュニティの活用、デジタル・ディバイドの解消に向け、全世界的参加を呼びかける「グローバルな情報社会に関する沖縄憲章」が採択された。沖縄憲章により今後G8を含む国際社会の取組みの方向性を示し得たことは大きな成果といえる。また、デジタル・ディバイド解消のためのG8諸国と国際機関による「デジタル・オポチュニティ・タスク・フォース」の設置も承認され、わが国は、今後5年間で150億ドル程度の資金支援の用意があることを表明した。

  5. 開発について
    1. 貧困と成長
      コミュニケでは、21世紀において貧困削減が開発の極めて重要な目的と明記され、2015年までに貧困を半減するという目標が示された。また、貧困の削減の実現のためには、民官主導型の経済成長が不可欠であり、中小企業や市民社会を含む広範な民間部門の成長のためには、経済的、社会的基盤を築かなければならない。貿易・投資は、持続可能な経済成長を促進し、貧困を削減する上で非常に重要であることも言及された。これは、貧困と経済成長のどちらを優先すべきかという議論に対してサミットとしての基本姿勢を打ち出したものといえる。過去四半世紀に貧困の克服について著しい進展を遂げてきたアジア諸国の成功例が「希望の指針」として紹介された。他方、特にアフリカ諸国は厳しい状況に直面していることが指摘された。

    2. 重債務貧困国(Heavily Indebted Poor Countries ; HIPCs)問題
      重債務貧困国には、現在40ヵ国が認定されているが、この内HIPCイニシアティブによって債務救済を受ける国は、ボリビア、タンザニア等の9ヵ国にすぎない(これらの国の債務救済総額は、名目価値で150億ドルとされる)。そこで、HIPCイニシアティブの迅速かつ効果的な実施のために、HIPCsによる貧困削減戦略ペーパー作成の技術支援や軍事衝突・紛争により債務救済の適用が妨げられている国との早期コンタクトなどを行なうことが合意された。併せて、こうした枠組みの下で本年末までに20ヵ国に対して債務救済を実施したいとの期待が示された。

    3. 政府開発援助(ODA)
      貧困削減に関してODAの重要性が改めて確認されるとともに、ODAの効果を高めるために、開発に向けられた資金の説明責任を果たし、透明な管理を通して国民の福祉を向上させる旨コミットしている国への援助を優先させることが示された。
      後発開発途上国(LLDC)向けのODAのアンタイド化については、OECDでの2年にわたる議論を踏まえ、公正な負担分担メカニズムに基づいて、2002年1月1日から実施すべきこと、また、ODAのアンタイド化が低水準にとどまっている国に対しては対応を改善するように強く求めることが確認された。高いアンタイド比率(93%)のわが国にとっては、望ましい結論となった。どのような負担分担のメカニズムをつくっていくかが今後の課題である。
      なお、LLDC向けODAのアンタイド化については、技術協力・食糧援助を対象外とし、アンタイド化は各国の任意とされた。

    4. 感染症
      サミットでは、HIV・エイズ、結核及びマラリア等の感染症の問題についても議論がなされ、各国政府(途上国を含む)、国際機関、産業界、市民社会とのパートナーシップを強化して協力していくことに合意した。今秋、具体策検討のためにこれら関係者が一堂に会する会議を日本で開催することとした。わが国としては、今後5年間で30億ドルを目処とする支援策を発表し、これが高く評価され、各国も支援を強化していくこととなった。

  6. 対中経済協力について
  7. サミット関連の議論の他に最近の主要なトピックとして対中経済協力の問題がある。外務省は、今後の対中経済協力のあり方についての提言を受けるため、経済協力局長の私的機関として学界、経済界、NGO等の有識者で構成する「21世紀に向けた対中経済協力のあり方に関する懇談会」を設置し、7月19日に第一回会合を開催した。ODAの透明性の向上という観点から国別計画を立てることとなっているが、本懇談会の答申をもとに来年早々に対中国計画を策定する予定である。


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