経団連くりっぷ No.130 (2000年8月10日)

ヨーロッパ地域委員会(司会 槙原副会長)/7月18日

日・EUはWTO新ラウンドに向け、引き続き連携を強化することが必要

−ラミー欧州委員との懇談


ヨーロッパ地域委員会では、訪日した欧州委員会のラミー委員(貿易担当)を招き、WTO交渉の今後の見通しやEUの通商政策に関して説明をきくとともに、意見交換を行なった。

  1. ラミー欧州委員説明要旨
    1. WTO新ラウンドについて
    2. WTO新ラウンド立ち上げが極めて重要であると考えている背景には、2つの技術的理由および2つの政治的理由がある。
      技術的理由の1つは、市場アクセスの更なる拡大が必要であるといったことである。GATT時代から残されている保護主義という障害を撤廃することは不可欠である。技術的理由のもう1つは、グローバル化に伴なって出てきている問題に対処するために新しいルールが必要であるということである。世界各国の相互交流が深まるにつれ、例えば環境、食料安全保障、健康などこれまでになかった世界規模の問題が発生している。この問題に対処するために新しいルールをつくることは避けられない。
      次に政治的理由の1つは途上国への対応である。われわれは途上国に対して、貿易にオープンな政策をとることにより経済的に発展するというシグナルを送る必要がある。政治的理由のもう1つは、市民社会への対応である。市民社会に対し、貿易をオープンにすることは合理的ルールをつくるためのものであるということをアピールしなければいけない。
      日本とEUは、新ラウンドに対する基本的スタンスは一致しているが、米国のスタンスとの間には少なからず相違があり、カナダを含めた4極の立場の溝を埋めることは、立ち上げには欠かせない。現在米国は大統領選の時期にあり、何かをコミットするにはあまり建設的なタイミングではないが、日・EUは協力して米国への働きかけをしていくべきである。

    3. WTO全般について
    4. WTOでは現在、農業問題とサービス問題が優先的に協議されているが、新ラウンドの立ち上げなくしては大きな成果はあり得ない。各国ともこの2分野の交渉結果のみ持ち帰り受け入れることは国内的に困難である。
      またWTOはこれから先、新たな加盟国を受け入れていかなければいけない。中国のほかにも現在アルバニア、クロアチア、リトアニアそしてサウジアラビアなど多くの国が加盟申請をしているが、これらの加盟実現にも尽力しなければいけない。
      今後のWTO加盟において最大の関心事は中国の加盟であることはいうまでもない。台湾問題に関して大きな議論にならなければ、来年中には加盟実現というゴールに到達すると考えている。巨大国である中国が加盟することによって、今後新たな問題が浮かび上がることも十分に考えられるが、中国首脳たちは、中国自体が大きく変革しなければWTOのコミットメントを完遂することができないことを承知しており、またそれを完遂しようという強い意思を持っている。われわれは中国に対して、知的財産権や裁判制度、統治制度といった貿易の基本的原則が中国国内で十分に整備されるように、種々の援助を行なっていく必要がある。また日・米・EUの経済界からも適宜提案を行なっていただきたい。
      紛争処理問題も重要な課題である。現在多くの案件がパネルで論議されているが、これ以上多くの紛争、特にこれまでなかったバイオテクノロジーのような複雑な紛争が発生することを避けるためには、新たなルールを早急に制定しなければいけない。さらに各国がコンプライアンスの重要性を認識することも不可欠であり、パネルが出した結論を遵守することが必要である。

    5. EUの通商政策および日・EU経済関係
    6. EUの通商政策の基本的な考え方は、グローバリゼーションを最大限に活用するということである。グローバリゼーションは多くのチャンスを生み出すものであるが、同時に多くのリスクも内包している。チャンスを最大限に利用しつつ、リスクを最小限に抑えるためには、しっかりとした通商政策の柱を打ち立てることが必要である。
      EUの通商政策の第1のオプションは多角的ルールの構築であり、第2のオプションが2国間・地域間の取極である。両者は矛盾するものではない。まず多国間主義を重視し、同時に2国間・地域間の関係を深化するという政策であり、これは日本のアプローチと同じである。双務的関係の構築についてEUでは、メキシコ、南アフリカと交渉が終了しており、さらにメルコスールやチリと現在交渉中である。
      日・EU関係については、15年前と比べて協力関係が著しく進展し、多くの分野で双方の理解が深まっていることに驚かされる。15年前には、貿易や技術協力などで戦略的パートナーシップを築こうということも、またWTOに関して協調していこうということもまったく夢物語であった。この関係深化の背景には、日・EUそれぞれがお互いを前向きなパートナーとして捉えようとする意思がある。双方は現在、米国という非常に競争力のあるライバルを抱えており、痛みを伴う構造改革を進めながら、共に前進しなければいけない。日・EUはお互いの経験から学ぶことは多く、協力していくことでそれぞれの変革を完遂することができると考えている。

  2. 意見交換(要旨)
  3. 経団連側:
    新ラウンド立ち上げにあたり、日本に期待することは何か。
    ラミー委員:
    新ラウンドに関して特に問題になっていることは環境、アンチダンピング、農業の3点である。この3点について日・EUはほぼ共通の見解を持っていることから、米国が同じ方向に進むように、協力して働きかけていかなければならない。また、途上国対策について日本は、アジア、特にインドと対話を行なうことが必要である。さらに自らの問題として、特に農業に関して自国市場をもっと開放するといった努力をしなければいけない。

    経団連側:
    大統領選の結果によって米国のスタンスに変化はあり得るのか。
    ラミー委員:
    貿易については現政権の方が開放的であると考えている。そのため次期政権が保護主義的な色彩を強める恐れもあるが、われわれは米国の姿勢がどのように変わっていくかを待つのではなく、継続的に交渉を進めるようにしなければいけない。

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