経団連くりっぷ No.130 (2000年8月10日)

日本トルコ経済委員会2000年度総会(委員長 武井俊文氏)/7月17日

東西文明の架け橋として期待されるトルコ

−一橋大学 内藤教授よりきく


日本トルコ経済委員会では、2000年度の定時総会を開催し、1999年度事業報告・収支決算、2000年度事業計画・収支予算を審議し、原案通り承認した。当日は審議に先立ち、一橋大学の内藤正典教授より、最近のトルコ経済・社会情勢と周辺諸国との関係について説明をきいた。

○ 内藤教授説明要旨

  1. トルコ共和国のキーワード
  2. トルコ共和国は、3つのキーワードで説明することができる。すなわちトルコは「東西文明の十字路」に位置しており、イスラム文明と西洋文明の接点にあたること。二つ目はこうした環境下で、アタテュルク建国以来「西欧化による近代化」という目標を掲げてきたこと。そして第三として、国民の99%がイスラム教徒でありながら、憲法において国家を非宗教的存在と規定し「政教分離」の国是を貫いていることである。

  3. 対EU関係
  4. トルコはEUの正規加盟の対象国となったが、実際に加盟できるかどうか問題が少なくない。例えば経済指標を見る限り、インフレ、財政などの面で、トルコはEU加盟の基準を満たしていない。現在EU域内には、トルコ系住民が約300万人流入している。1960年代初めの高度成長期に、EUでは若年層の労働力不足、単純労働の忌避が発生した。ドイツ、オランダ、フランスなどのEU諸国が、トルコと雇用双務協定を結び、トルコから大量の労働者がEUへ流入した。その後1973年の第1次石油危機を契機に、EU各国で外国人労働者の受け入れを停止したが、トルコ系の定住者が家族を呼び寄せたため、逆にトルコ人の数は増え続けた。外国人労働者に反発するEUの国民感情もあり、今の段階でトルコがEUに加盟するのは、極めて難しいと考える。

  5. 対中央アジア関係
  6. トルクメニスタンなどトルコ系民族の多い中央アジア諸国に対して、トルコがリーダーシップを発揮していくことが予想される。しかし、中央アジア諸国も一様ではない。資源のポテンシャルが大きい国もある一方、イスラム過激派による政治干渉というリスクを抱える国もある。トルコ系の言語や文化など民族的に共通性を有してはいるが、トルコが盟主だという態度を示せば、これら中央アジア諸国が離反していく可能性もある。

  7. 文明の衝突か、架け橋か
  8. これまでイスラム世界を見る際には、南のアラブ諸国を中心に見ていた。しかしこれからの時代は、地政学的に北に位置するシルクロード諸国がイスラム世界にとって重要になってくるだろう。北側のイスラム諸国が東西文明の架け橋になるか、紛争の発生源になるのか。トルコが大国意識を持たずに、この地域の安定に寄与し、文明の架け橋になることが期待されている。


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