経団連くりっぷ No.130 (2000年8月10日)

産業技術委員会(委員長 金井 務氏)/7月17日

疾患遺伝子研究の目指す方向

−国立がんセンター研究所 廣橋所長よりきく


昨年、高齢化対応、情報、環境の各分野に対して予算の集中投資を行なうミレニアム・プロジェクトが開始され、その着実な推進が強く期待されているが、産業技術委員会では、ミレニアム・プロジェクトの重要テーマの一つである疾患遺伝子研究の責任者である国立がんセンター研究所の廣橋説雄所長より、ミレニアム・ゲノム・プロジェクトにおける疾患遺伝子研究のめざすものについて説明をきいた。併せて、提言「わが国の強みを活かしたバイオ産業の健全な発展に向けて」(案)、および「21世紀を拓くナノテクノロジー」(案)の審議を行なった。(7月18日の理事会の承認を得て、政府・関係方面に建議)

○ 廣橋所長説明要旨

  1. 疾患遺伝子プロジェクトの開始
  2. 昨年、高齢化対応のミレニアム・プロジェクトとして、個人に適した医療法を選択するオーダーメイド医療等の実現を目指すミレニアム・ゲノム・プロジェクトが採択され、複数の遺伝子、および環境要因が関係する疾患対策に対する取組みが本格的に開始された。

  3. SNPs解析
  4. 今後のゲノム研究は、ゲノムの個人差、つまり、個々人のゲノムの塩基配列で、1塩基のみ異なるSNPs(Single Nucleotide Polymorphism)が中心となる。これが、タンパク質の構造に影響を与え、病気へと繋がる。
    SNPsの違いにより、病因遺伝子を特定することで、効率的な治療の実施が可能となるとともに、患者と健常者との遺伝子を比較することで、病気の原因となる疾患遺伝子も解明できると考えられている。

  5. 国立がんセンターのプロジェクト
  6. 遺伝子が関係する疾患・病態として、遺伝病など遺伝子異常がその病態の本態であるものと、体質が疾患の発症に関係するものとがあるが、多くのがんは、複数の遺伝要因と環境要因とが絡んで発生する。
    国立がんセンターでは、遺伝子解析による疾病対策・創薬推進事業として、疾病ゲノム研究に関わる共通基盤技術とデータベースの開発と提供、および疾病ゲノム研究における倫理的・法的・社会的諸問題に関する調査研究等を行なっている。

  7. 今後の疾患遺伝子研究の課題
  8. プロジェクトを進める上で、多くの遺伝子サンプルの収集が必要であり、国民の協力が不可欠となる。厚生省では国民理解のために、研究者が守るべき規範として、「遺伝子解析研究に付随する倫理問題等に対応するための指針」を策定し、個人情報の保護、インフォームド・コンセントの徹底、遺伝カウンセリング体制の構築等を唱えた。
    医療・産業に有用な遺伝子の同定、産業化の進展を考慮すれば、遺伝子の機能、構造に対応して新薬を開発するゲノム創薬におけるSNPsの情報の重要性はますます強まる。国民の理解を得て、産・官が一体となり取組みを進めることが必要である。


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