経団連くりっぷ No.130 (2000年8月10日)

日本・インドネシア経済委員会2000年度総会(委員長 上島重二氏)/7月28日

インドネシアの国民協議会をめぐる政治・経済情勢

−東京大学 加納教授よりきく


日本・インドネシア経済委員会では、2000年度の定時総会を開催し、1999年度事業報告・収支決算、2000年度事業計画・収支予算を審議し、原案通り承認するとともに、役員の改選等を行なった。当日は、東京大学東洋文化研究所の加納啓良教授より、国民協議会をめぐるインドネシアの政治・経済情勢について説明をきいた。

○ 加納教授説明要旨

  1. ワヒッド(グス・ドゥル)政権の性格
  2. ハビビ前政権は長きにわたるスハルト政権の幕引き政権という意味合いが強く、一方、ワヒッド政権は新生インドネシアの最初の政権と位置づけられる。希望の架け橋という前向きな性格、さまざまな党派の集合体という性格等から現地のマスコミは「虹の内閣」と呼んでいる。

  3. 分離独立運動と宗教抗争
  4. 東ティモールの独立に刺激され、アチェ、イリアンジャヤ、リアウ等で独立運動が活発化しているが、その性格はそれぞれ異なる。アチェやリアウは、過去の強権的な弾圧を清算し、地方を重視する施策を実施すれば解決が可能であろう。但し、現在の県・市単位から州単位での分権化政策を軌道修正が必要である。マルクにおける宗教抗争は、国軍の介入よりむしろ文民指揮下での治安回復を行なう必要がある。国際的な介入は逆に問題の泥沼化を招く恐れがある。

  5. 国民協議会を前にした大統領と議会の対立
  6. 大統領と議会の対立は、2名の経済閣僚を解任したことが発端である。2人の経済閣僚はワヒッド連合政権を支える2大政党の出身である。これが大統領の罷免にまで発展するかどうかが取り沙汰されている。国民協議会は国権の最高機関であるが、憲法あるいは5年に1度定められる国策大綱に明確な違反行為があった場合のみ大統領を罷免することが可能である。今回のケースはこれに該当しない。また、インドネシアの政治家、国民、マスコミは、政治的な安定が対外的にも不可欠であることをよく理解している。したがって、政権交代の可能性は低い。今次国民協議会でむしろ注目すべきは、憲法改正の動きである。単一国家か連邦国家かという国家形態の変更、大統領と議会の権限関係、選挙制度の変更等が焦点である。

  7. 経済情勢
  8. 経済は、対外依存度の低い地方の中小セクターが早い段階から回復している。銀行整理など経済の中枢部分が問題であるが、これも徐々に回復しつつある。但し、最近のルピア安は、海外の投機筋が再び動いているとの見方があり、不安定要素である。また、雇用・賃金など労働問題は依然深刻である。長期的には、GDPの8割以上に増大した政府の対外債務の処理をどう進めるかという課題がある。


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