経団連くりっぷ No.130 (2000年8月10日)

経済政策委員会 企画部会(部会長 小井戸雅彦氏)/7月21日

今後の税制改革の方向

−大阪大学 本間教授よりきく


経済政策委員会企画部会では、大阪大学の本間正明教授を招き、今後四半世紀における税制のあり方について説明をきいた。

○ 本間教授説明要旨

  1. 1990年代、累次の経済対策や減税を実施した結果、日本財政は質量ともに劣化した。「景気対策か財政再建か」といった議論があるが、このまま財政を肥大化させることは、もはや景気対策の上でも適切でない。

  2. 今後、仮に3%成長を実現しても、自然増収のみによって財政健全化を図ることは不可能であり、税制見直しと併せて、公共事業や社会保障、国と地方の関係を含む行財政改革の姿を提示しなければならない。

  3. 21世紀の税制を考えるにあたっては、

    1. 経済の国際化、
    2. 「デジタル・デバイド」に象徴される階層間の問題、
    3. 世代間の利害対立、
    4. 地方と都市の利害対立、
    5. ライフスタイルの多様化、
    などを念頭に置く必要がある。

  4. 法人課税については、東京都における銀行対象の外形課税導入を契機に、法人事業税のあり方が焦点となっている。一つのポイントは「事業税の外形課税化か、それとも消費税拡充によって代替するか」という点である。両者は、理論的には大きな違いはないが、「転嫁の直接性」の違いが指摘されている。事業税の場合は製品価格への転嫁が難しく、「企業負担」との意識が強い一方、消費税の場合は製品価格への上乗せが比較的容易と考えられている。また、消費税では輸出時に国境税調整が行なわれるのに対して、事業税ではこれが不可能であり、国際競争上アンフェアとの指摘もある。いずれにしても、現在の法人課税は基本的に利益を対象としたものであり、公共サービスへの対価をどう考えるのかといった論点につき、検討を深める必要がある。

  5. 今後の財政運営にあたって、消費税のウエートを高めていくことは不可避だが、あらゆるものを消費税によって賄うべきかどうかについては議論の余地がある。将来の消費税率としては、最低20%程度を覚悟しなければならないが、その際、現行の帳簿方式では十分に対応できず、インボイス方式に見直すべきである。併せて、複数税率制や、事業者を対象とした納税者番号制度の導入も検討する必要がある。

  6. 現行の地方交付税制度は、地方財政の効率低下・肥大化につながっており、地方自治体における独自財源確保との見合いで、交付税制度を見直す必要がある。

  7. 所得税については、現在の定率減税方式を恒久化するのではなく、累進性の緩和を構造的に行なうべきである。その際、課税最低限の問題についても議論が必要となる。資産課税については、人々のイコールフッティングを確保する観点から、「新規に蓄積した資産」と「過去から引き継がれた資産」を分けて考える必要がある。


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