経団連くりっぷ No.131 (2000年9月14日)

貿易投資委員会 総合政策部会(部会長 團野廣一)/8月31日

WTO新ラウンド交渉立上げに向けた動き

−外務省 井原課長よりきく


WTO新ラウンド交渉立上げに向けた最近の動向と今後の展望について、外務省国際機関第1課の伊原純一課長より説明をきいた。このなかで、伊原課長は、包括的な新ラウンドの早期立上げに向けては、解決が困難なさまざまな障害があると述べた。

○ 伊原課長説明要旨

  1. 新ラウンド立上げをめぐる動向
  2. 九州・沖縄サミットにおいてG8首脳は、WTO新ラウンドの年内立上げに向けて努力することで合意し、その旨が共同コミュニケに盛り込まれた。しかし、新ラウンドの年内立上げはなかなか困難な情勢にある。それは、昨年11月のWTOシアトル閣僚会議は交渉のアジェンダをめぐる各国の対立が主要因で決裂したが、これが今日に至るまで基本的には解消されていないためである。
    農業、サービスといったウルグアイラウンド交渉の合意済み事項を中心に、限られたアジェンダで新ラウンドを立上げるべきであるという立場(米国等)と、投資、競争などを含んだ野心的なものとすべきであるとの立場(日本、EU等)が対立している。また、環境、労働といった今まで貿易と直接関係がなかった事項をどこまで交渉の対象とするかについて、積極的な姿勢を示す米欧と、消極的な途上国の対立がある。さらに、わが国が求めているアンチダンピング協定の見直しについては米国が強く反対している。

  3. 包括的新ラウンド立ち上げの可能性
  4. わが国は包括的ラウンドの立上げを主張している。しかしながら、以下のような困難や不確定要因がある。

    1. 投資ルール、競争政策等をWTOの場で交渉することについては米国および途上国が消極的である。
    2. 現在、EUはわが国同様包括的ラウンドを主張している。しかし一方で、農業補助金に関して紛争処理パネルに付託しない旨定めたモラトリアムが切れる2003年末までに、農業交渉を終結させたいという思惑も見えかくれしている。
    3. ウルグアイラウンドの合意済み課題である農業とサービスについては既に交渉が始まっており、2001年4月頃から交渉が本格化する見通しであるため、新ラウンド立上げが遅れると、農業とサービスを切離し、早期妥結を図るべきであるとの気運が高まる可能性もある。
    4. シアトル閣僚会議から満2年となる2001年11月を目処に閣僚会議を開催し、新ラウンドを立ち上げないとWTOの信頼が損われかねないとの懸念から、包括的ラウンドにこだわらず、早急にラウンドを立上げることが賢明との主張が強く出てくる恐れもある。

  5. 現実に即した戦略が必要
  6. 包括的なラウンドを立上げて、新たなルール作りも含めWTOの機能を強化していくことは極めて重要である。しかし一方で、包括的ラウンド立上げの難しさをも認識し、現実にも即した戦略を考えていく必要がある。


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