経団連くりっぷ No.132 (2000年9月28日)

プーチン大統領歓迎昼食会/9月5日

日ロ経済交流拡大のため相互に努力


経団連、日本商工会議所、経済同友会、日本ロシア経済委員会、ロシア東欧貿易会の共催で、公式実務訪問のため来日したプーチン大統領歓迎昼食会を開催した。当日は、今井会長の歓迎挨拶、プーチン大統領の答礼挨拶に続き、大統領の要望により日本側から日本企業が対ロ関係で抱える問題点を指摘した。

プーチン大統領

  1. プーチン大統領演説要旨
    1. 日ロ関係:
    2. 日本との交流は、ロシアの世界政策の中で極めて重要である。現在、日ロ関係の発展にとって絶好の時期にあり、今回の来日で森総理と個人的な信頼関係が築け、協力の現実的な第一歩を踏み出せた。

    3. ロシア経済の改革:
    4. ロシア経済は国際環境にも助けられ、回復基調にある。GDP成長率は1999年3.2%、今年上半期7.3%であったし、鉱工業生産も今年上半期は8〜9.3%伸び、リアルセクターでは目に見えて改善してきている。エネルギー部門は不調であるが、インフレ率は先進国と比肩しうる程度に抑制され、貿易黒字、外国直接投資、税収は着実に増加している。
      今後の改革は、2010年までの長期経済発展計画に則って進める。特に所有権保護、生産者の税負担の軽減など企業活動の円滑化に資する法整備を進め、市場主導型経済の育成に努める。改革を進めるうえでは、行政、司法、立法の整合性を確保するとともに、連邦政府と地方政府との関係を調整し、ロシアを統一した法的空間とする。そのための議会改革、犯罪対策も進めていく。

    5. 日ロ経済交流に向けたロシア政府の努力:
    6. 日本ロシア経済委員会が実施した日ロ経済交流に関するアンケート結果を拝見した。法制度やインフラの未整備など重要な指摘がなされており、この点は私もよく理解している。しかし、ロシア政府の努力にも着目してほしい。上院改革や司法制度改革はその例で、「統一された法的空間」の実現に向け、連邦政府、裁判所、議会、地方政府が協力して仕事を進めていく。また、対外債務は、最近は遅滞なく返済している。
      日本の対ロ投資については、海外からの投資額の1%にしかすぎず、14位にとどまっている。ロシアとのビジネスで日本企業が抱える問題は認識しているが、現状を十分活用しているとは言い難い。日本側が対ロ投資に積極的になってくれるよう望む。ロシア政府も、日本の投資家が不当な扱いを受けないよう、司法制度の大幅な改革を進める。合弁会社をめぐる問題の解決にも努力する。日本にはロシアに対する画一的な見方を捨ててほしい。

    7. 今後、経済交流が期待される分野:
    8. 第1に、エネルギー分野での協力が期待される。日ロ協力によりアジア太平洋地域にエネルギーを供給できる。ただ、ロシア東部の天然資源開発、サハリン大陸棚天然ガス開発プロジェクトなど重要な案件が、日ロ双方の関係者の理解不足から十分に実施されていない。日本との電力供給ブリッジ構想、極東での原子力発電所建設計画もある。温暖化対策では、パイロット・プロジェクトを通じた日本による排出権買取りも可能である。
      第2に、シベリア・ランドブリッジの共同利用など輸送分野での協力である。
      第3に、原子力、環境、宇宙、医学、バイオなどハイテク分野での協力がある。今年7月に日本ロシア経済委員会が中心となって開催した「日ロ・ハイテクフォーラム」を高く評価する。冶金、石炭、森林、水産資源などの貿易拡大も重要である。
      今回、森首相との間で、橋本・エリツィンプランの延長上に、新たな経済協力プログラムを作ることを合意した。政府間貿易経済委員会についても、定期会議と極東会議の年内開催が合意された。国際協力銀行(JBIC)の融資プロジェクトにも、双方が努力して的確に対応すべきである。ロシア政府は日本企業を支援する。

    9. 経団連との関係強化:
    10. 日ロ経済交流の促進には、日本の経済界の支援が重要である。今井会長には経団連ミッションを率いて、ロシアを訪問してもらいたいと招待した。今井会長の訪ロは両国の関係強化に大きく貢献する。この計画ができるだけ早い時期に実現することを望んでいる。また、10月開催の第5回日本ロシア経済合同会議にも大きく期待する。

  2. 日本側発言要旨
  3. 日本側からは以下の問題につき説明し、大統領の理解を求めた。

    1. サハリン大陸棚天然ガス開発プロジェクト(サハリン1、2)に対するプーチン大統領の支援。特にサハリン1に関する生産物分与協定の整備(付加価値税の還付、輸入付加価値税の免除等)、
    2. カマズ・トラック工場をはじめとする国際協力銀行の融資案件への支援、
    3. 完成品よりも部品に対する税率が高い輸入関税の引下げ、
    4. 日ロ経済委員会極東部会が推進しているザルビノ港拡充プロジェクト、日ロ共同プロジェクト6案件(ガスパイプライン、水力発電所、非鉄金属処理施設)へのロシア連邦政府による国家保証、
    5. 極東の日ロ合弁企業の係争問題に対するロシア政府の積極的な対応、
    6. 極東日ロ貿易発展(石炭、水産、木材)に向けた公的な信用補完スキームの構築、
    7. 金融システムへの信頼性回復(銀行免許の発給基準の厳格化、国際的会計基準との整合性確保、マネーロンダリングや外国への資本逃避の防止)。
    なお、日本の金融機関ではすでに銀行員の日本での研修、ロシアへの専門家派遣、ロシア中央銀行や金融機関再編庁へのアイディアの提示などによる協力を進めている。

  4. プーチン大統領回答要旨
  5. 日本側の協力に感謝する。今の指摘を踏まえ改善に努める。国家保証はプロジェクトを詳細に検討して、判断されるべきである。会計制度も改善努力を進めるが、ロシアのほうがフランスよりは整備されている。資金逃避問題は、合法的な資金持ち出しは自由化する方向で考えている。マネーロンダリングは徹底して禁止する。外国投資家に負担をかけることなく、快適にロシアでビジネスをできるよう努力する。


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