経団連くりっぷ No.132 (2000年9月28日)

会社法改正に関する懇談会(司会 千速 晃 経済法規委員会共同委員長)/9月12日

多面的な変化に迅速に対応する会社法制の整備を求める

−保岡法務大臣はじめ法務省幹部と懇談


経団連は、かねてより、経済社会の変化に即して、会社法の機動的改正を求めている。こうした中、保岡興治 法務大臣からの「8月31日の産業新生会議における経済界側の商法改正要望について、具体的に議論を深めたい」との提案を受けて、9月12日には、保岡法務大臣、上田 勇 総括政務次官はじめ法務省幹部と片田副会長、千速経済法規委員長など経団連幹部、産業新生会議の経済界側委員とが意見交換会を開催した。

  1. 保岡法務大臣挨拶
  2. 8月31日の産業新生会議において、時代の変化とスピード化に対応する企業法制整備を求める経済界の声に応え、

    1. 商法抜本改正のスケジュールの明確化、
    2. 法制審議会の改善、
    3. 事務的立法体制、
    等の拡充について、法務省の構想を次回会合で示すと約束した。
    世界中でIT革命やコンピュータネットワークが広がり、急激な変化が起きている。また、行政が効率的社会を実現した時代は去り、自己責任とルールを重視する時代となった。こうした変化にわが国が対応して進んでいけるよう、国際的にも調和のとれた司法制度と立法体制が必要となっている。
    大臣就任直後に、2002年の通常国会で会社法の大改正をすることを指示した。実質、あと1年強で改正案を仕上げねばならない。法務省は国民の立法ニーズに戦略的に対応するという重要な任務を担っており、そのためにも立法要員の確保が必要である。立法の効率化のためには、国会も、法務委員会を民事と刑事で分けるといった工夫が必要ではないかと感じている。

  3. 経済界側意見要旨
    1. 商法を50年ぶりに大改正するという基本方針について高く評価する。

    2. (1) CPのペーパーレス化、(2) 一株あたり純資産額基準の撤廃、(3) ストックオプション制度の見直し、(4) インターネットを活用した公告や株主総会の見直し、の4点について前倒しを求めたい。

    3. 改正の一部前倒しについて、全体との整合性を失うことを懸念する声があることや、法務省の立法体制が脆弱であることは承知している。しかし、企業法制の弾力化が失われれば日本全体が沈んでしまう。法務省にはそうした危機感と時代認識をもって取り組んでほしい。

    4. 代表訴訟制度は取締役会が全員一致で決議した内容でも、そのうちのある者が代表訴訟の対象となると、その人が自分の責任と費用で対応しなければならない等の問題がある。本件については、議員立法の準備が進んでおり、法制審議会の改正作業はそれを前提に進めてほしい。

    5. 親会社が支配権を持ちながら、子会社や個々の部門の事業に関心のある投資家から資金調達を可能とするトラッキングストックの導入を求めたい。

    6. ストックオプション制度について、

      1. 付与対象者の個別氏名を承認の対象から外すなどの付与手続の簡素化、
      2. 付与上限、付与対象者規制の撤廃、
      を求めたい。

    7. ベンチャーキャピタルがベンチャー企業を支援しやすくなるよう、

      1. 取締役の選任・解任権に係わる種類株式の創設、
      2. 種類株主総会の開催基準への定款自治の導入、
      3. 無議決権株式の議決権復活要件の定款自治の導入、
      が必要である。加えて、一株あたり純資産額規制の撤廃などを求めたい。

    8. 資本準備金による自己株式消却の特例は、資本の効率化や株主価値の実現などに大きな役割を果たしており、恒久化を求める。また、特例の対象を未公開株式に拡大してほしい。

    9. CPは、券面の発行が行なわれるため、発行・運搬・保管に煩雑な手続とコストが必要である。早期に、券面なく発行できるようにしてもらいたい。その際、CPの機動性を損なわない形での制度整備が必要である。

    10. 各企業では、外国人株主が増えており、株主総会の特別決議の定足数を充たすことが困難になってきている。一方、組織再編など特別決議が必要な案件は増えており、特別決議の定足数を、取締役の選任決議同様、発行済株式総数の3分の1まで切り下げることができるようにしてほしい。
      また、株主総会の権限のあり方も見直すべきである。

    11. 立法体制の強化に向けて、ロースクールの創設といった構想も進められているが、現下の切迫した状況に鑑み、経済人や研究者、弁護士などを法務省が取りこむことも一案ではないか。

    12. 金庫株の容認、少なくとも、企業再編に伴って、ある会社が別の会社の子会社となってしまった場合に、親会社となった会社の株式を相当の時期に処分しなければならないとする規制を撤廃していただきたい。

    13. 親会社が子会社の株式を9割程度、買い上げた場合に、残りの株式は現金で買い上げることができるという株式の強制買取制度を創設してほしい。

    14. 現物出資や事後設立における検査役制度を見直し、公認会計士や弁護士による調査で済ますことができるような制度を求めたい。

    15. 米国で、複数の企業がリスクの高い事業に進出したり、事業の再編、再構築を進める手段として用いられているLLC、LLPの導入を求めたい。

  4. 法務省側発言要旨
  5. ここ3回の国会において、基本法を扱う衆参両院の法務委員会は開催回数、成立させた法案数、ともに最高の数であった。それほど大きな時代の地殻変動が起きている。司法が今のままでは、社会のボトルネックとなってしまう。法務省は、待ったなしの課題を解決するために、持てる資源を最大限効率的に投入し、最大限の効果を挙げたい。しかし、押し寄せる課題に対応するには、

    1. 法務省の立法スタッフの拡充、
    2. 法制審議会の改革、
    等が必要である。
    経済界からの要望については、株主の立場、債権者の立場、一般的な社会的な見方を検討した上で、妥当なものであれば早く立法化しなければならないと認識している。


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