経団連くりっぷ No.132 (2000年9月28日)

農政問題委員会(共同委員長 大國昌彦氏、丹羽宇一郎氏)/8月30日

食料・農業・農村基本法に基づく新たな農政の展開


昨年7月に、食料・農業・農村基本法が制定され、それに基づき、小麦、砂糖、乳製品等の農産物の価格政策や農地法の見直し、農協改革等新たな農政の確立に向けた取組みが進められている。そこで、農政問題委員会では、農林水産省大臣官房の武本俊彦企画室長、ならびに経済局の奥原正明農業協同組合課長らを招き、今後の農政の重要課題等について説明をきくとともに懇談した。

  1. 農水省側説明要旨
    1. 新基本法の制定、基本計画の策定
    2. 旧農業基本法は昭和36年に制定されたが、その後の食料自給率の低下、農業者の高齢化・農地面積の減少、農村の活力の低下等農業を取り巻く環境が大きく変化したことから、昨年7月、「食料・農業・農村基本法」(以下、新基本法)が制定された。
      旧農業基本法では、農業の発展と農業従事者の地位向上を通じた農工間の格差の是正が目標に据えられたが、新基本法では、農業だけではなく、食料、農業、農村の3つの側面からとらえ、「農業の持続的な発展」とその基盤となる「農村の振興」を通じて、「食料の安定供給の確保」と「多面的機能の十分な発揮」を図ることを基本理念としている。その上で、新基本法では、今後10年程度を見通して、基本理念を具体化するものとしての基本計画の策定、消費者重視の食料政策の展開、市場評価を適切に反映した価格形成と経営安定対策等の施策の方向性が示された。
      本年3月に閣議決定された基本計画は、食料、農業、農村をめぐる情勢の変化を勘案して、施策の効果に関する評価を踏まえて、概ね5年ごとに見直しを図ることになっている。

    3. 農林水産行政に係る政策評価の実施
    4. 来年1月の省庁再編に伴い、各省庁に政策評価が導入される。新基本法に政策評価の実施を明記していることもあり、農水省では、他省庁に先駆け、今年度から政策評価を実施する。具体的には、農水省に係る主要施策を79の政策分野に分類し、政策分野ごとに5年以内の定量的目標を設定し、実績が出た段階で評価を行なう。
      農水省では、政策評価の試行的取組みとして、先般、ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策の中間評価を実施したが、事前に定量的な目標が定められていない事業が多く、評価が難しい面もあったため、今後の政策評価の実施に際しては、定量的な目標を事前に設定することとしている。

    5. 食料自給率目標の設定
    6. 食料自給率について、基本計画では、供給熱量総合自給率として、5割以上を目指すことを適当としながら、計画期間である平成22年度において、生産者、消費者等が取り組むべき課題が解決された場合に達成される総合食料自給率目標として、45%の数値目標を設定した。
      その目標達成には、消費、生産の両面からの対策が必要となる。消費面については、今後の国民の健康を考慮すると、栄養バランスの改善が何よりも必要であり、厚生省、文部省と合同で食生活指針を策定した。生産面では、品質、価格面で実需者に購入してもらえるような農産物生産体系の構築を基本に据え、需要の拡大に努める。

    7. 食料の安定供給と農業、食品産業
    8. 食生活の変化に伴い、加工食品の増加、食の外部化、サービス化等が進行し、食に占める食品産業のウエイトが高まっている。そのため、国内農業と食品産業の連携、コスト低減や効率化を目指した流通部門の改革等の取組みが必要である。
      昨今、価値観の多様化に伴う農業に対する再評価に伴い、新規就業者が拡大する傾向にあるが、引き続き新規就農者の育成、確保を図る必要がある。また、農業経営の法人化を推進するため、農業生産法人の形態の一つとして、株式会社を認めるとともに、事業要件を見直す等の農地法改正案を次期臨時国会に提出する。
      また、市場の実勢を踏まえた農産物の価格形成を目指し、農産物の価格政策の見直しを図る。小麦については、平成12年産より、政府による全量買入れから、価格形成に入札や相対取引を導入し、民間流通体系へと移行した。砂糖についても農産物の需給動向が価格に適切に反映されるよう最低生産者価格の算定方式の見直しを行なった。酪農・乳業についても、市場実勢を反映した価格形成制度を導入すると同時に、生産者の経営安定のための資金拠出を行なうシステムに移行すべく検討を進めている。

    9. WTO農業交渉
    10. WTO農業交渉については、本年3月の第1回WTO農業委員会特別会合において、交渉提案の提出期限を2000年末とすること等が合意され、各国から、国内支持、国境措置(関税)、輸出補助金の取扱い等を含めた交渉提案を提出することになった。

    11. 農協系統の事業組織のあり方
    12. 現在、経済局長の私的検討会として、「農協系統の事業・組織に関する検討会」を設置し、今後の農協系統の事業組織のあり方について検討を進めている。
      検討会では、新基本法の理念を踏まえ、社会経済情勢の変化に対応した農協系統の事業・組織の改革を図ることを念頭に据え、農産物の販売体制、生産資材の供給体制、農村生活関連事業、信用事業、農協系統の組織等の見直しに向けた議論を進めている。
      農協系統でも、10月のJA全国大会に向け、別途検討が進められているが、農水省でも、10月または11月には報告書をとりまとめ、来年度の通常国会に関連法案を上程したい。

  2. 懇談(要旨)
  3. 経団連側より以下のような意見が出された。

    1. 現在、新規就農人口が増加しているが、今後、労働力人口が急激に減少に転ずることが予想される中、この事実を楽観的に捉えるべきではなく、長期的な視点から農業就労人口の拡大に向けた検討が必要である。
    2. 農業は保護され、その改革のスピードが遅かった。社会情勢が急激に変化するなかで、農業の生産性向上に向けた施策の展開や農協改革に早急に取り組む必要がある。
    3. 農政の展開に当たっては、農林水産業全体を俯瞰しつつ、柔軟な発想で取り組む必要がある。

くりっぷ No.132 目次日本語のホームページ