経団連くりっぷ No.132 (2000年9月28日)

経済法規委員会 経済法規専門部会(部会長 西川元啓氏)/9月13日

会社法の根本改正

−早稲田大学 上村教授と懇談


法制審議会商法部会は9月6日、2002年通常国会での会社法抜本改正に向けた具体的検討項目を決定した。そこで、経団連経済法規専門部会は、9月13日に改正の焦点の一つとなっている公開会社法制の第一人者である早稲田大学の上村達男法学部教授を招き「会社法抜本改正のあり方」について説明をきくとともに意見交換を行なった。

  1. 上村教授説明要旨
    1. 会社法制の見直しの視点
    2. 法制審議会の商法改正の見直しの視点については、市場のグローバル化に立ち後れてしまった制度を、やや追随している印象がある。この際、欧米の改正動向を全面的に取り込みうる制度的・理論的基盤の再構築が必要ではないか。
      株式会社制度の本質は「最大級の証券市場に耐えうる企業形態」である。今回の商法改正では、会社法を、市場の影響を受ける公開会社の法制へと脱却させ、本来的な株式会社制度に相応しいコーポレート・ガバナンスの確立を促すべきである。

    3. 経営権の根拠はガバナンスシステム
    4. 近年、大規模公開会社の株主は、投資家の概念に近づいている。株主総会は、3ヵ月前の流通市場の一瞬の静止画像が集会を構成しているに過ぎない。株主総会はガバナンスシステムの一翼を担うものではあるが、証券市場が発達した今日では、経営権に正当性を持たせる意思決定機関としては機能していない。もちろんIR、情報提供の場としての意義はある。この意味で、経済界の主張である「株主総会の権限の縮小」には首肯できる。
      経営権の根拠は、会社の所有者たる株主の選任自体にあるのではなく、会社のガバナンスシステムの権威にある。したがって経営者を監督する制度の充実や、内部統制の確立、会計監査制度の充実、情報開示の徹底等が経営権の正当性を担保する。例えば経営者の監督は第三者に委ねることが権威を高めることになる。また、取締役会を経営の監督に特化させるのであれば、取締役会の決議事項は整理することが可能となる。

    5. 経営者責任論の見直し
    6. ガバナンスシステム自体が経営権の正当化の根拠ということになれば、民法の不法行為、債務不履行と同様の損害賠償理論、あるいは閉鎖会社の取締役の責任論を公開会社にそのまま当てはめることは適当ではない。また、現行法の因果の及ぶ全ての損害を賠償すべきという理論を前提として、取締役の責任の軽減をする発想や、それを株主総会に委ねることは、公開会社法理に相応しくない。訴訟リスクは経営リスクとして捉えうる範囲で、会社がコストとしうる。責任の範囲は上限下限を法定して裁判所に一定の裁量を与えることが理論的に正しいと思われる。また、不当利得は返還すべきであるが、損害賠償を勝訴、敗訴で分けることや、取締役の悪意、重過失、法令違反についてもすべてを無限責任と切り捨てることが妥当かどうかは見直すべきである。

    7. 規制の柔軟性の根拠
    8. 公開会社法における規制の柔軟性の根拠を、定款自治に求めるべきではない。機関秩序は公開会社のなすべき事柄を達成しうる限度で法定されれば、その範囲で経営者とそれを監督する取締役会との力関係に委ねれればよい。公開会社では経済社会の最も基本的な枠組みとしての株式会社制度の客観性、安定性を重視すべきであり、そうした観点から、開示・会計・監査制度を支えるガバナンスシステムを強行法規的に位置づけておく必要がある。また経営規模の大きさ、債権者保護からの規制についても、同様の観点から強行法規的な枠組みが求められる。

    9. 取締役会のあり方
    10. 従来、取締役は、経営者と同一視されており、代表取締役も従業員兼務取締役も経営委員会内部の職務分担に過ぎなかった。取締役会を、経営の監督機関として位置付けるのであれば、商法の取締役会の権限に関する規定(260条)から「業務執行ヲ決シ」との表現は削除すべきであり、執行役員と監督者の兼任は取締役運営の便宜のためにのみ認めるという整理が必要である。
      監査役は過渡期の制度であり、将来は取締役会の中に監査委員会を設け、その構成員として時間をかけて移行させてはどうか。その上で会計監査報告書の作成は公認会計士の専権とし、監査役ないし監査委員会構成員には業務監査報告書の提出を義務づけてはどうか。

    11. その他の課題
    12. 計算書類の承認・報告を株主総会決議事項から外すかどうかが焦点となる。決算と監査手続を株主総会の開催と切り離せれば、株主総会は特別決議事項のためだけに開けばよいことになり、招集通知を1ヵ月前に発することも可能となる。
      株式分割の際の純資産基準については、額面制度を残したまま基準をなくすことには疑問がある。
      会社の計算・開示については、証取法概念を全面的に受け入れるべきである。
      会社区分立法のあり方については、

      1. 公開会社法、
      2. 未公開会社法、
      3. ベンチャー用会社形態、
      4. 将来にわたり公開しない閉鎖会社(有限会社)、
      が理念型として考えられる。ただし、外部監査は適用するが、株式譲渡制限を認める未公開会社など、経済実態に配慮した妥協的な形態も考えられる。

  2. 意見交換(要旨)
  3. 経団連側:
    連結経営といわれながら、単体での開示を求められている点は疑問である。
    上村教授:
    理論的には原則として連結開示のみでよいこととすべきである。

    経団連側:
    執行役員制度は代表訴訟の対象とすべきか。
    上村教授:
    対象とすべきで、むしろそれを監督する取締役会の責任が相対的に、より軽減されてよい。

    経団連側:
    これまで公開会社法制が浸透しなかった理由は何か。
    上村教授:
    戦前は所有と経営の分離現象に議論をしていたが、これはマーケットを対象としていたのである。しかし、証取法が存在しなかったし、マーケットの論理もなかったため、問題を理論的に受けとめる受け皿がなかった。またこの50年間は判例も閉鎖会社中心で、会社法学においても株式の私的所有が主流であり、公開会社に相応しいものは生まれ得なかった。


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