経団連くりっぷ No.132 (2000年9月28日)

経済法規委員会 独禁法問題ワーキンググループ(座長 阿部一正 新日鐵知的財産部長)/9月7日

独占禁止法違反の制裁制度

−法務省法務総合研究所 郷原研究官よりきく


7月26日の規制改革委員会の論点公開で、調査に積極的に協力する独禁法違反者に対する課徴金減免措置の導入が提言され、公取委でも検討を開始したと報じられた。そこで、独禁法等の経済法に関わる制裁措置を検討している法務省法務総合研究所の郷原信郎研究官から説明をきいた。

○ 郷原研究官説明要旨

  1. 独禁法違反に対する抑止力強化の経緯
  2. 独禁法制定後長らく排除措置のみによる運用が行なわれてきたが、石油ショックに端を発した価格カルテルへの批判が高まり、1977年に課徴金制度が導入された。さらに、1989年からの日米構造協議における米国の要求を背景に、1990年に公取委が刑事告発方針を発表し、1991年に課徴金算定率の引上げ、1992年には法人に対する罰金刑の引上げ(上限1億円)を行うなど独禁法違反に対する抑止力の強化が相次いだ。

  3. 現行制度の枠組み
  4. 課徴金は不当利得徴収を目的とする制度で、事業者を対象とし、裁量性はない。しかし、一定の制裁的機能を有していることも否定できず、法的性格とその機能との間に乖離がある。一方、刑事罰は制裁措置であり、対象は、事業者(罰金)、行為者本人(懲役・罰金)、代表者(罰金)である。公取委が専属告発権を持っており、事案の悪質性・重大性を勘案する等、裁量的に行なわれている。このような課徴金と刑事罰の併用は国際的にもほとんど例がない。
    専属告発権を有する公取委の調査には、人員・体制の面からも、刑事罰の適用に対応する調査権限という面からも制約があり、事案の悪質性・重大性に応じた制裁を行なうに十分なものかどうか検討の余地がある。
    米国に続いてEUとの独禁法運用協力協定締結の動きがあるなど、競争政策運用の国際化が進んでおり、日本での独禁法運用強化を求める国際的圧力も今後一層高まることが予想される。

  5. 検討すべき課題
  6. 独禁法違反行為に制裁を科す上で「何故に罰すべきか」について、社会の合意形成が必要である。社会的規範が確立されていなければ、各国で導入されているリニエンシー・プログラム(情報提供者に対する制裁減免措置)を導入しても有効に機能しない。
    発注者が関与した談合で、企業側だけが担当者個人を含めて処罰されるのはバランスを欠いているとの意見も強い。発注制度が実態に合わないこともその要因の一つである。発注者側の処罰の在り方の検討とともに,発注制度の改革など競争条件の整備も必要であろう。
    独禁法違反の悪質性・重大性についての基本的な考え方を明確に示すとともに、課徴金と刑事罰の併用という現行の制裁体系を今後も維持すべきか、将来的に、米国型の刑事罰中心あるいは欧州型の行政罰中心の枠組みを指向するのかについて、新たな視点から検討することが必要と思われる。


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