経済法規委員会 企画部会(部会長 山本 勝氏)/9月28日
近年、米国においては株主総会にITを活用することにより、議決権行使の効率化と促進を図っている。わが国においても、現在進められている商法の抜本改正において、こうした動きを視野に入れて取り組んでいく必要がある。そこで経済法規委員会企画部会では、中央三井信託銀行証券代行部の清水調査役を招き、米国の株主総会におけるIT活用の状況についてきいた。
米国の株主の多くは、その保有株をカストディーやストリートネームと呼ばれる銀行・証券会社(ノミニー)に預託している。発行会社の株主名簿にはこれらノミニーの名前が記載されており、実質株主を把握することは難しい。実質株主に対し発行会社が直接、株主総会の招集通知を発送したり、配当を送金することは困難である。このため、ノミニーが発行会社に代わってこれらの事務処理を行なわねばならず、大きな負担となっていた。
こうした中、元来、企業の給与計算などのデータ処理を行なっていたADP社(Automatic Data Processing Inc.)は、ノミニーの委託を受けて実質株主への郵便物(招集通知やアニュアルレポート等)の封入発送、議決権行使書の回収集計を代行するようになった。同社は、徹底的な定型化、様式化と電子化を進めた結果、1999年の米国の株主総会シーズン(2月〜5月)には、処理した招集通知が8,300万通にのぼり、納品から発送までを平均2.5日で処理している。また、議決権行使の集計については全行使数の87.6%をADP社が処理した。
送達方法は多様化しており、基本は書面であるが電子メールやホームページの活用が行なわれている。
議決権行使は、従来の議決権行使書(Proxy card、機械的な集計が可能)やフリーダイヤルでも行なえるが、希望者は、インターネットサイト「www.proxy.com」で、画面の指示に従ってクリックすれば、電子的に行なえる仕組みになっている。
また、機関投資家向けには、膨大な数の議決権行使を容易にするため、専用ソフト「Proxy-Edge」が用意されている。
この場合、最も重要なことはセキュリティの確保である。議決権行使の際には乱数表で作られた12桁の暗号を入力することとなっている。この番号は毎年変更され、同じ人でも銘柄ごとに違う番号が与えられる。インターネットによる議決権行使の場合もこの暗号に加えて予め郵便等で確認を経て与えられるPersonal Identification Number(PIN)を入力することにより、厳重な保護がなされている。
現在、インターネット上で株主総会を開催する可能性が喧伝されている。パソコンの画面を見ながら、バーチャル総会に出席するというものである。しかし、米国でもそこまでのことを実行しているところは極めて少ないと思われる。また、バーチャルの会議は実際の会議より参加者の発言が増えるという傾向があるほか、途中退場が簡単であることや不規則発言等、会議の秩序を保つことが困難であるといった問題がある。
バーチャルな総会を開催するためには、例えば、
テレビ会議方式を活用して複数の会場を接続するという株主総会は、より現実的な選択肢であり、技術的にも比較的容易に対応できると考えられ、国内でも既に実験している企業もある。ただし、これが株主にどの程度喜ばれるのか、メリットとして挙げられるスペース問題の解消はどれほどのインパクトなのか不明である。インターネットとの組み合わせなども視野に入れながら、株主の利便性をどの程度追求できるかが課題である。