経団連くりっぷ No.133 (2000年10月12日)

WTOをめぐる米国シンクタンクとの懇談会(司会 太田 元 参与)/9月28日

WTOの競争政策と紛争処理制度をめぐる諸課題


WTOと競争政策との関係について米国国際経済研究所(IIE)のグラハム上級研究員より、WTO紛争処理制度の課題についてアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)のバーフィールド研究ディレクターよりそれぞれ説明をきいた。

  1. WTOと競争政策
  2. 競争政策の国際レベルでの実施に向けた協力は、「日米独禁法協定」に代表されるように、1990年代以降二国間ベースで推進されてきた。実際、独禁法の適用基準についての国際的なコンセンサスは存在せず(特に垂直的統合に対する適用)、多国間で議論することは難しいといわざる得ない。
    こうしたことから、WTOにおいて新たに「貿易と競争」というアジェンダを取りあげるのは現実的でない。反競争的な効果を持つ政府措置に焦点を絞って、既存の枠組の中で対応していくことが有効であろう。例えば、WTOのサービス貿易自由化交渉の中で、電気通信、金融、航空等、今まで規制に守られてきた分野に「競争促進的規制原則」を導入することが考えられる。
    また、競争政策の観点から、WTOのアンチダンピング協定を見直すことも有益であろう。確かに、米国はアンチダンピング協定の見直しについて消極的である。しかし、外国政府が米国企業をアンチダンピングで提訴するケースが、米国政府が外国企業に対してアンチダンピング措置を講じるケースをはるかに上回っている現状を考えれば、米国もルールの見直しに無関心ではいられないはずである。経団連としてもアンチダンピング協定の見直しの必要性を訴えていくべきであろう。

  3. WTO紛争処理制度の課題
  4. WTOの紛争処理制度は、国家間の経済紛争を客観的な法律テキストに基いて解決するという点で大きな役割を果してきた。特に、ネガティブ・コンセンサス方式の導入により、全加盟国が反対しない限りパネルならびに上級委員会の裁定が採択されるようになったことは評価できる。しかし近年、WTOの紛争処理の過度な司法化が問題視されている。
    ウルグアイラウンドの結果、WTO協定が投資など、従来は国内法のみによって規律されていた分野をも対象とするようになった。このため、WTO紛争処理機関としては、国内規制の透明性など各国の国内法に係る事項についても司法的判断をする必要性に迫られることがある。その際は国内の経済、社会、文化上の問題をも考慮せざる得ない場合もある。また、WTOの法律テキストは各加盟国の妥協によって成り立っているため玉虫色であることが多い。中には相互に矛盾しているものもあり、WTO協定に準拠して司法的判断をすることが困難な場合がある。
    そこで、WTO事務局長の権限を拡大し、紛争を政治的に決着する制度を確立するのも一案といえる。


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