経団連くりっぷ No.134 (2000年10月26日)

貿易投資委員会 総合政策部会(部会長 團野廣一氏)/10月11日

わが国も欧米を参考に国内の通商法制を整備すべき


成蹊大学の松下満雄教授より、欧米の通商法の概要、わが国の通商法をめぐる課題について説明をきいた。松下教授は、外国政府の不公正な貿易措置により影響を受けた民間企業が、政府に提訴できるよう、わが国の法制度を整備すべきであると述べた。

○ 松下教授説明要旨

  1. 米国通商法301条
  2. 米国通商法301条は、米国産業界が外国政府の不公正な貿易慣行によって影響を受けた場合に、米国通商代表部(USTR)に提訴するための手続を定めている。
    301条の発動要件は、外国の措置が、(1)WTO協定や二国間協定等に違反すること、(2)不当なこと、(3)不合理なこと、(4)差別的なこと、のいずれかである。USTRは、(1)または(2)と認定した場合には、WTO紛争処理手続に訴える等の措置を取らねばならない。(3)または(4)の場合は、報復措置を発動するか否かはUSTRの裁量に任ねられる。
    米国がWTOの紛争処理機関に提訴する案件の約4割は301条に基づくものである。他方、従来批判されてきた一方的措置の発動は、最近ではほとんど見られない。

  3. EU貿易障害規則
  4. EU貿易障害規則では、外国の措置が国際貿易協定に違反している場合、共同体産業(通常は業界団体)あるいは個別企業が、欧州共同体に対して提訴するための手続を定めている。
    業界団体が訴えることができるのは、外国の措置に基づいてEUに製品が輸出される結果、域内産業に何らかの実質的な損害が生じるような場合である。
    個別企業が訴えることができるのは、外国の当該措置によって、域内企業が当該国に輸出する上で貿易上の悪影響が生じるような場合である。
    申立があった場合、欧州委員会は審査し、外国の措置に協定違反があれば、協定に従い適当な措置を取る。

  5. わが国の通商法の課題
  6. わが国では、関税定率法において、アンチダンピングおよび相殺関税措置に関しては、産業界からの申立手続が定められているが、その他の措置に対しては申立制度がない。
    わが国においても、欧米と同様の制度を整備すれば、政府の手続の透明性が高まるとともに、申立者に対して手続的な保証を与えることができる。
    今後わが国がこうした制度を整備するうえでは、

    1. 政府が産業界の利益に加えて国益を考慮できること、
    2. 提訴形式としては政府に報復措置の発動等を求めるのではなく政府による調査開始を申請する形とすること、
    3. 申立権者を国内事業者とすること、
    4. 担当官庁を一本化すること、
    等を基本に定める必要があろう。
    また、アンチダンピングについても、提訴にあたっての企業の挙証責任の軽減、執行体制の整備などが課題である。


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