経団連くりっぷ No.135 (2000年11月9日)

国土・住宅政策委員会(委員長 香西昭夫 氏)/10月5日

大交流時代における日本観光の未来

−観光革命の実現


国土・住宅政策委員会では、地域の活性化等に果たす観光の役割の重要性に鑑み、わが国観光のあり方に関する検討を重ね、今般、提言(案)をとりまとめた。一方、政府の観光政策審議会においては、本年末を目途に21世紀初頭における観光振興方策について答申する予定となっている。そこで、国立民族学博物館の石森秀三教授より標記テーマについて説明をきき意見交換を行なうとともに、経団連の「21世紀のわが国観光のあり方に関する提言」(案)について審議を行なった。(提言は10月17日に公表)

  1. 石森教授説明要旨
    1. 大交流時代の到来
    2. 「観光革命」と呼ぶべき世界的な潮流はこれまで3回あった。第1次観光革命は1860年代、スエズ運河および米大陸横断鉄道等のインフラ整備に伴って発生した欧州富裕階級による外国旅行ブームであった。次に1910年代、タイタニック号等大型客船の就航を受け、米国中産階級の間でも外国旅行が可能となり、第2の波をつくった。そして、第3次観光革命は、ジャンボ・ジェット機が開発された1960年代、先進諸国において外国旅行が大衆化したことによってもたらされた。
      また1950年代には、全世界での海外旅行者数は僅か2,500万人であったが、現在世界で6億人が旅行するようになっている。2010年には10億人に達すると予測され、まさに「大交流時代」が到来している。

    3. アジアにおける観光革命(観光ビッグバン)
    4. このような中、アジアの経済発展を前提として、アジアにおいて観光革命(観光ビッグバン)が起こると期待される。現在、上海、ソウル等アジア諸都市において4,000m級滑走路を備えた巨大空港の建設が進んでいる。
      一方、外国人観光客受入数についてみると、日本はOECD加盟国中22位に位置し、対人口比率では3%と最低であり、トップのオーストリア(同210%)とは比較にならない。アジアからの大量の国際観光客が予測されているが、高コスト構造やホスピタリティ等の問題を克服しない限り、「観光後進国」日本は素通りされる惧れがある。

    5. 観光立国を図る米国
    6. わが国とは対照的に米国では、ブッシュ前大統領やクリントン大統領がテレビに出演して観光キャンペーンを展開するなど、政府主導のもと観光振興に取り組んでいる。米国においては、国内総生産の約12%に相当する生産額を誇るとともに、1,430万人を雇用する最大規模の産業であり、観光の重要性が十分に認識されている。また、観光産業は文化輸出産業と位置付けられ、21世紀のリーディング産業の一つとみなされている。

    7. 自由時間革命
    8. 明治政府においては、富国強兵政策と並んで二宮尊徳をモデルとする国家デザインが確立されていた。すなわち、勤勉に励むことが国家的に奨励されてきたわけであるが、オイルショックなどを経て物質的な豊かさから心の豊かさを志向する傾向が強まったことなどを受け、仕事重視から自由時間重視へと考え方が変わりつつある。
      加えて、長寿社会の到来に伴い、高度経済成長期に勤労一辺倒であった人生を振り返り、余生をいかに楽しむかという意識が強まることから、自由時間産業がますます重要になると考えられる。日本における有給休暇の取得率は51%に過ぎないが、取得率の高いドイツなど欧米諸国の方がむしろ労働生産性が高いことなどを考慮すると、有給休暇の完全取得を義務付ける法制度が検討されてもよい。

    9. 地域づくり観光の重要性
    10. 少子化による人口減少と長寿化は、定住人口重視から交流人口重視へと、地域社会に大きな変化をもたらす。それに伴い、地域の個性を見直し、観光開発の重要性が高まるものと期待される。第五次全国総合開発計画においては「地域の自立の促進」と「美しい国土の創造」が謳われており、地域の総合的な魅力の創造が観光振興につながるとしている。
      また、団体観光から個人あるいは家族観光、また短期滞在型から長期滞在型へと観光形態が多様化している中、都市を周遊するアーバン・ツーリズム、農村民泊の形を取るグリーン・ツーリズムなど、地域主導型・地域づくり型観光が益々重要になりつつある。

    11. シンガポールの「観光首都」戦略
    12. 人口300万人の小国シンガポールは、物流・人流・観光立国を目指すべく、港湾やチャンギ空港の整備などに急ピッチで取り組んでいる。また、多民族国家である同国は、エンターテイメントや文化遺産、田園風景、ショッピングモールなど多様な魅力を高め、「アジアの観光ハブ」となる戦略を打ち出している。これは、宿泊税の特定財源化に伴う巨額の観光予算と豊富な人員(411名、110億円)等によって支えられている。
      一方、日本の国際観光振興会の人員および予算(116名、35億円)は、他のアジア諸国や主要先進国と比べても最低であり、観光に対する国の姿勢の差が如実に表われている。

    13. 広域観光推進戦略の構築
    14. 米国では、州境を超えた11の広域連携組織が存在し、マイアミ市やフロリダ州は東京にも観光オフィスを設置するなど、重層的に観光を推進する体制が整っている。また、ソフト面を軽んじる日本と異なり、ニューヨークでは“I love NY”キャンペーンなどに州と市合わせて25億円の宣伝費を投じるなど、イメージ戦略に力を注いでいる。
      わが国においても関西広域連携協議会が昨年6月に設立されるなど、広域連携の重要性が認識され始めてはいるものの、ソフト面での施策は未だ不十分である。今後、広域観光推進機構を確立するとともに、観光振興のための地域マーケティングに長けた人材を登用するなどの取組みが求められる。

  2. 意見交換(要旨)
  3. 経団連側:
    わが国で観光革命を実現するためには、巨大な国際空港が必要ではないか。
    石森教授:
    近い将来起こる観光ビッグバンによって、わが国の国際航空需要は運輸省予測を超えると考えられ、4,000m級滑走路を有する空港を整備することが至上命題である。

    経団連側:
    国内観光を振興する上での課題は。
    石森教授:
    観光振興のため公的資金を投入すべきである。民間の自助努力を基本に据えながらも、環境整備に当たっては官がきちんと予算措置を行なう必要がある。

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