経団連くりっぷ No.135 (2000年11月9日)

ABAC提言に関する報告会/10月19日

ABAC日本委員がAPEC首脳への提言を森首相に提出


10月16日、APECビジネス諮問委員会(ABAC)は、21メンバー国・地域の首脳に対し、今年度の提言を提出した。わが国では、楠川徹富士総合研究所特別顧問、荒井好民システムス・インターナショナル会長、鳴戸道郎富士通特命顧問の3名の日本委員が森首相を訪問し、提言を手交した。これを受けて、ABAC日本支援協議会では、10月19日、日本委員のスタッフを招き、「ABAC提言に関する報告会」を開催した。

  1. 2000年度ABAC活動の背景
  2. 今年度のABAC活動は、昨年末のWTOシアトル会議以降に顕著となったグローバル化に対する懸念や不安の高まりを背景として始まった。また、その後も、中国のWTO加盟交渉の進展や世界的な広がりを見せる自由貿易協定(FTA)締結に向けた多様な動きなどの国際情勢に触発されながら、APECが今後とるべき基本的な方向に関して真剣な議論が展開された。これらの議論の内容は、今回の提言の「総論」や「WTOおよびWTO新ラウンドへの支援」、「FTAの多国間通商システムに対する補完性の確保」などの部分に反映されている。

  3. 今年度ABAC提言のテーマ
  4. 今年度のABAC提言のタイトルは「グローバリゼーション−APECのとるべき道」である。これについて、今年度のABAC議長であるブルネイのティモシー・オン氏は、「APECの貿易・投資の自由化・円滑化推進のための取組みは、グローバリゼーションを通じて成長を実現しようとするものに他ならない」と述べ、その環境整備を目的としたAPECのキャパシティ・ビルディング(能力構築)のための取組みは、「APEC加盟国・地域の経験および資源を分かちあうことによって社会のあらゆる層の能力を引き上げ、グローバル経済から得られる利益を最も効率的に引き出すことを目的としている。これらAPECの2つの役割、すなわち貿易・投資の自由化・円滑化とキャパシティ・ビルディングは、共に必要であり、かつ表裏一体のものである」との認識を示した。
    市場の自由化をキャパシティ・ビルディングによって補完していくというAPECのアプローチは、グローバリゼーションに対する懸念や不安が高まる昨今の情勢下において真価を発揮しうるものである。こうした基本認識に基づき、今回のABACの提言では、貿易・投資の自由化・円滑化とキャパシティ・ビルディングに関して、ビジネスの立場からAPECの今後とるべき方向を具体的に示した内容となっている。

  5. 貿易・投資の自由化・円滑化
  6. 貿易・投資の自由化・円滑化に関する部分では、APECはWTOに支えられた多国間通商システムを強力に支持すべきこと、また先進国は2010年までに、その他の国は2020年までに貿易・投資の自由化を達成するというAPECのボゴール目標達成に向けて、その実現のための手綱は決して緩めてはならないことが強調されている。ボゴール目標の実現を推進する具体的方策としては、APECの個別行動計画(IAP)プロセスを強化するようなさまざまな取組みが提案されている。
    一方、ビジネスの遂行を円滑化する方策として、非関税障壁の削減、各加盟国・地域間の基準認証制度の差から生ずる障害の除去、ビジネス関係者のAPEC域内移動の円滑化(APECビジネス・トラベルカードの導入等)が重要であると指摘している。さらに、昨年度APEC首脳に承認されたAPEC食料システムについて中間目標を明示し、その実施を首脳に求めている。

  7. キャパシティ・ビルディング(能力構築)
  8. キャパシティ・ビルディングに関する部分では、優先分野を金融システムの構造改革とIT・バイオテクノロジーなど先端技術へのアクセス改善の2つに絞り込み、実効ある具体的な中味を与えていくべきであると述べている。金融システムについては、アジア金融危機から得られた教訓を活かすために、各加盟国・地域が金融システムに関する国際的な基準を採用し、モニターするメカニズムの導入、債権市場やベンチャー・中小企業向け株式市場の育成、さらに国際金融アーキテクチャーの強化を提言している。また、IT・バイオテクノロジーについては各加盟国・地域が技術進歩から得られる利益を最大限に引き出すため、「電子商取引適応性評価イニシアティブ」の実施、電子商取引に関わる新たなIAPの策定、「行政オンライン(Government Online)」の推進、ITに関連する法規制の整備、人材育成へのインターネットの活用、バイオテクノロジーに対する科学的アプローチの採用などが提言されている。

  9. 今後の予定
  10. ABACは、APECに加盟する21ヵ国・地域の首脳により任命されたビジネス界の代表によって構成されるAPEC唯一の公式民間諮問機関である。今回提出された提言は、ABACが年初来3回にわたり行なってきた国際会議における議論の成果である。今回提出された提言の内容については、11月のブルネイにおけるAPEC首脳会議にあわせて実施される「APEC首脳とABAC委員との対話」の中で議論される予定である。ABACの提言は、APECに対する民間からの「公式の声」として厳粛に受けとめられ、それらの中味は、閣僚レベル、事務当局レベルで検討され、APECの各組織は積極的に対応している。
    今回、提言に関する報告会を開催した「ABAC日本支援協議会」は、ABAC日本委員とわが国産業界との交流・意見交換、また啓蒙活動を通じ、個々の企業が自らのビジネス環境改善のために、アジア太平洋地域の通商問題、産業課題などに関して自らの意見をABACを通して表明する手助けをしていくことを目的として、経団連をはじめ、経済五団体の支援を得て昨年12月に設立された組織である。現在会員数は55社であるが、発足約1年を迎え、今後一層の活動の充実をはかるべく新規会員を募集中である。また、12月14日には、3人のABAC日本委員による年度報告会を予定しており、支援協議会以外の方も参加可能なので、奮ってご参加いただきたい。


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