経団連くりっぷ No.136 (2000年11月22日)

アジア・大洋州地域委員会(共同委員長 立石信雄氏)/11月8日

日本とシンガポールとの「新時代経済連携協定」


10月22日の日本とシンガポールの首脳会談において、「新時代経済連携協定」の交渉を開始することが合意された。そこで、アジア・大洋州地域委員会では、外務省開発途上地域課の宮川眞喜雄課長、通産省地域協力課の梅原克彦課長、大蔵省国際調査課の佐藤宣之課長補佐より、今回の合意のベースとなった報告書「日本とシンガポールとの新時代における連携のための経済協定」の内容ならびに今後の交渉の見通し等について説明をきいた。

  1. 経緯
  2. 1999年12月に、シンガポールのゴー首相が来日するのに際し、日本との自由貿易協定(FTA)の交渉ないしは少なくとも合同検討を行いたいとの要請を受けた。当初は、政府内においても、WTOを中心とする多角的自由貿易体制のもとで貿易の自由化を進めることが強調され、二国間または地域ベースで自由化を行うことに対してのかなり抵抗があった。
    しかし、産業界からの支持を受けたこともあり、議論を重ねた結果、12月の両国首脳会談で共同研究を行うことが合意された。それを受けて設置された産学官からなる合同検討会が、3月から9月にかけて4回会議を開催し、報告書をとりまとめた。その報告書に基づき、10月22日の両国首脳会談において「新時代経済連携協定」の交渉を開始することと、来年12月31日までに交渉を終えることが合意された。

  3. シンガポールの提案理由
  4. シンガポールの提案理由の一つとして、アジアにおける地域協力が遅れているとの認識がある。アメリカには、NAFTA、メルコスール、欧州にはEUが存在するのに対して、アジアにおける地域統合の歩みが遅い。AFTA(ASEAN自由貿易地域)はあるが、シンガポールから見ると、そのスピードが遅いようだ。APECについても、ボゴール宣言に盛られた目標の達成が疑わしいとの見方もある。そうした中、シンガポールとしては、アジアにおいて、いろいろな組み合わせで自由化が進んでいけば、自由化のネットワークが張り巡らされ、これが結果的にAPEC全体の自由化を補完することを期待し、まず日本とのFTAを提案したと考えられる。
    また、シンガポール側には、経済発展を遂げている中国と比較して、ASEANが投資先としての魅力を失うことへの危惧も見受けられる。

  5. 報告書の内容
    1. 両国を取り巻く環境
    2. 報告書の第1章は、日本とシンガポールがどのような環境にあるかを概観している。新時代の地域経済協定は、ヒト、モノ、カネ、情報の越境移動を促進するものでなければならない。現在、技術的な進歩により、ヒト、モノ、カネ、情報は二国間を自由に移動できるが、制度が異なっていることが動きを制約している面もある。両国間で制度の調和を図ることにより、日本の企業がシンガポールにおいても日本にいる時と同様に活動できるようになれば、両国における経済活動が拡大し、ひいては周辺国にもプラスの経済効果をもたらすことが期待できる。
      また、協定はWTOを補完するものでなければならない。昨年のシアトルにおけるWTO閣僚会議に如実に現れた通り、現在、WTOの多国間アプローチが進み難い状態にある。関税の引き下げについては、数字に表すことで障壁の比較が容易となり、ある程度の進展を見た。しかし、サービスや制度の面は、国際間の比較が容易ではないこともあって、多国間の交渉が進みにくい。そこで、日本とシンガポールの間でサービスの自由化や制度の調和を進め、その利益や経験を周辺国に均霑していくことで、WTOレベルよりも深い自由化が可能となると考える。

    3. 両国の経済連携
      1. 自由化・円滑化
        関税については、「実質的に全ての貿易」について関税を撤廃すべきというFTAに関するWTOのルールを尊重しつつ、関税引き下げが難しい産品については10年以内に自由化することを目指すこと、また、第3国からの迂回貿易を防止するための原産地規則の策定が必要なことなどについて合意した。競争政策の分野では、協力メカニズムを創設するという条件の下、アンチダンピング措置を適用しないことを検討することで合意した。サービス貿易の自由化では、航空サービスのハードライトおよび海運サービスのカボタージュ(内航海運)を除くあらゆる分野とあらゆる供給形態を対象とすることで合意した。
        投資の分野でも、できるだけ多くの分野をカバーするつもりであり、例えばパフォーマンス要求の禁止、外国投資関連の資金の自由な移動の保証を含むことを考えている。また、専門家の移動ならびに熟練労働者の雇用および訓練の円滑化の重要性も確認している。政府調達については、電子化システムの開発において互いの経験と専門知識・技術を共有しうることを合意した。その他に、税関手続きをはじめとする貿易手続、非関税措置、相互承認、政府調達などについても報告書は言及している。

      2. 二国間協力
        自由化・円滑化の分野のみならず、二国間協力分野も対象にしていることが、今回の協定を、FTAではなく経済連携協定という名前にした所以である。
        金融サービスでは、規制監督、資本市場の連携、市場インフラの改良、第3国への技術協力、さらには共同投資協力などについて、通貨・金融当局あるいは関係機関間で検討することが有意義であるとの認識で一致した。情報通信サービスの分野では、個人データ・プライバシー保護、電子商取引関連法制、電子政府等について協力を進めることを勧告した。
        貿易・投資の促進については、JETROとシンガポール貿易開発庁による貿易・投資ミッションの派遣等の検討に合意した。また人材育成の分野で、大学間での単位や学位の相互承認、教授陣の交換ができないかと考えている。その他、生命科学および環境技術、中小企業、メディア・放送等の分野においての協力にも言及している。


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