経団連くりっぷ No.136 (2000年11月22日)

アメリカ委員会 企画部会(部会長 本田敬吉氏)/11月8日

米国の競争力の源泉と日本の戦略

−通産省 石黒新規産業課長よりきく


アメリカ委員会企画部会では、第二回目の会合として通産省産業政策局新規産業課長の石黒憲彦氏を招き、米国の競争力の源泉および今後の日本の戦略のあるべき姿に関しての説明をきいた。

○ 石黒課長説明要旨

  1. 「一人勝ち」米国ビジネス生態系
  2. 米国の企業文化とは「マニュアル文化」(ノウハウを「形式知」として蓄積)である。これに業務を「モジュール化」(業務プロセスの骨格を明確にし個々の業務を分権化)して行ってきたのが米国型マネージメントの典型であった。このために、官僚主義に流れて失敗するというネガティブな側面を持ち合わせていたが、IT化には非常に適した形態であった。IT導入の結果、企業と企業を有機的に結ぶ神経組織がインターネットになり、各組織の組換えを激しく行いつつイノベーションを創出する新たなビジネス生態系=「個を単位とする経済社会」が創出された。
    さらにこれが進化し、グリーンスパン連銀総裁がよく言及する「概念化・知識集約化された社会」が形成されつつある。知識ストックが溜まり、インターネットを通じて誰もがアクセスできるようになり、それをテコにイノべーション等を行う新産業生態系が完成した。

  3. 伝統的日本モデルの強さと限界
  4. 一方、日本企業では「暗黙知」の中で助け合って仕事を埋めあっていく「ヒト第一」主義の企業文化であるため、IT化、新技術革新の障害になってきている。また、企業単位および企業グループ単位で動くので、大胆な構造転換がしにくい欠点も指摘されている。かつての「護送船団方式=共生」は、環境変化が激しい状況では共倒れするような脆弱性を露呈した。

  5. IT革命は日本を再生できるか
  6. IT革命で何を実現するのかという問題が浮上してくる。IT産業自体のビジョンではなく、経済社会システム(ビジネス生態系のあり方)のビジョンが重要になってくる。IT革命とは目的ではなくあくまで手段にすぎず、ITを活用する施策は各経済社会システムにより異なったものでなくてはならない。日本産業の生態系は異なっており米国型のIT活用施策は馴染まない。

  7. 競争力ある産業構造の構築へ
  8. IT投資を促進し、二つの競争((1)通信料金の引き下げ (2)ユーザー業界の競争)を奨励することが重要である。ビジネスの効率化だけでは不十分であり、今後いかに数多のイノベーションを生み出す企業間の壁を超えた、柔軟で風通しの良い知的創造活動ための「偶発」と「創発」を高めるビジネス生態系をつくれるかが日本の課題となっていくであろう。


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