経団連くりっぷ No.137 (2000年12月14日)

輸送委員会(共同委員長 常盤文克氏)/11月30日

より効率的な物流体系の構築

−欧米における物流システムについて、流通科学大学 林教授よりきく


当委員会では、昨年7月に『物流効率化の推進に関する提言』をとりまとめ、わが国の高コスト構造を是正する観点から、道路や港湾、空港等基幹的な社会資本の整備ならびに規制緩和の着実な推進等を訴えてきた。今後はこれらに加えて、商慣行や取引制度等も検討課題として位置付け、諸外国との比較等を通じて、より効率的な物流体系の構築に向け検討していくことが重要である。そこで、標記委員会を開催し、流通科学大学の林克彦教授から「欧米における物流システム」について説明をきいた。

  1. 林教授説明要旨
    1. 欧米の物流の効率性
    2. 欧米との比較において、わが国物流の高コスト構造がしばしば指摘されている。国土の広さや物流ニーズの相違等もあり、単純な比較はできないが、少なくとも欧米では物流ニーズに合致した物流サービスが提供されているといえる。
      しかし、米国では1970年代後半の規制緩和以降、物流コストが急速に低下した反面、安全性の低減、ドライバー等労働者の賃金暴落等も指摘されており、規制緩和の陰の部分も表われている。一方、欧州では市場統合の過程で段階的に規制緩和、競争条件の調和が行われ、国境障壁の撤廃による国際輸送の効率化が実現している。
      したがって、欧米の物流を見るときには、各国の規制の枠組み、産業構造等を把握したうえで導入可能な施策を検討する必要がある。

    3. EUの共通運輸政策と物流市場
      1. 自由化と調和
        欧州では市場統合の過程で、交通市場の統合が重要な要素となり、「自由化と調和」政策が共通運輸政策の柱に位置付けられた。まず段階的な自由化においては、国際輸送の自由化とともに、域内外国事業者に対し国内輸送の開放(カボタージュ)が導入され、国籍によって差別されることなく域内他国の国内輸送が可能となった。
        次に競争条件の調和においては、カボタージュ導入の前提条件である自動車関連税制について、共同体として燃料税、車両税の最低税率を設定し、有料道路制の導入を求める指令を出した。また、各国でバラバラの税率格差を是正するため、ディーゼル燃料税の調和が行われた。但し、こうした税率や社会的規制(運転・休憩時間、危険物輸送、取締等に係る指令・規則)等の競争条件の調和についてはなお不十分であり、今後基準を収斂させる必要がある。

      2. 持続可能なモビリティ
        欧州ではトラック輸送急増による環境問題、渋滞、エネルギー問題等に対処するため、1992年末「持続可能なモビリティ」政策が打ち出された。これは、(1)複合輸送の促進、(2)トランス・ヨーロピアン・ネットワーク(TEN)の整備、(3)鉄道の再活性化を3本柱としている。
        (1)としては、スウェーデンからイタリアへの海運・鉄道一貫輸送、スキポール・ミラノ空港間の航空貨物の鉄道輸送をはじめ計120プロジェクトが指定され、EUが補助を行っている。また(2)については、欧州連合条約にTEN規定を新設、ガイドラインを作成し、TENプロジェクトへの財務支援等が行われている。さらに、(3)に関しては共通鉄道政策が1991年に打ち出され、インフラ整備と運行の上下分離、特に国際複合輸送業者のインフラへのオープンアクセス等が謳われている。加えて、欧州鉄道貨物フリーウェイとして、アントワープ(ベルギー)とジョイア・タウロ(イタリア)を結ぶ国際鉄道網が1999年2月に開通したことは注目に値する。

      3. 物流市場の変化
        欧州ではアウトソーシングや情報システム化等の荷主ニーズを受け、物流システムの構築から運営まで全ての機能を担う物流業者、すなわちサードパーティー・ロジスティクスへの取組みが進んでいる。特に、先行する英国では物流規制緩和の徹底や、小売業者のサプライチェーンマネジメント(SCM)が促進されている。
        また、荷主業者の調達・販売活動の広域化に伴い、欧州全域を対象としたネットワーク拡大のため、買収等が加速化している。

    4. イギリスの物流政策
    5. 英国では混雑最小化、環境対策、物流の効率改善等を目的に、1999年、“Sustainable Distribution”(物流白書)が公表された。ここでは、単なる輸送ではなくロジスティクスやSCMを対象に持続可能な輸送市場のための行動計画を示し、料金税制等の経済的施策の活用やEU共通鉄道政策の推進等を謳っている。また、土地利用と道路整備計画を統合し、物流効率化の推進を図っている。例えば鉄道、水運の促進を含む土地利用計画の策定や、新規道路整備より道路メンテナンスを優先させる政策、道路網と鉄道、水運との結節点の統合整備、トラック輸送の効率化等はわが国にとっても大いに参考となる。

    6. 欧州の物流から何を学ぶか
    7. このように、欧州においては経済効率のみならず環境問題および生活の質を重視しており、複合輸送や鉄道貨物の促進、トラック輸送の効率化への取組み等について学ぶべき点は多い。
      また、ハード・ソフトを含む輸送機関間、内の統合という観点からは、ターミナルや港湾、空港の結節点整備、既存インフラの有効活用も重要な試みである。さらに段階的な規制緩和、セーフガードの設定と併せて、鉄道、空港、港湾等の民営化、運営・会計の透明化、PFIの導入等についても、わが国として進めていくべきである。
      今後、1997年に閣議決定された総合物流施策大綱を見直していく過程で、環境問題を重視しつつ、輸送機関ごとではなく物流体系全体を捉えた総合的な施策を推進していくことが求められよう。

  2. 意見交換
  3. 経団連側:
    東京都が構想している対ディーゼル車対策に類するものは欧米にあるか。

    林教授:
    欧州ではノルウェーのオスロでロードプライシングを行っており、ロンドンでも検討中であるときいている。

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