経団連くりっぷ No.138 (2000年12月28日)

なびげーたー

技術立国日本の復活

常務理事 永松惠一


21世紀も科学技術の時代である。豊かで安心・安全な社会を築くうえで、経済成長は不可欠であり、その源泉は技術開発である。

  1. 100年前の1901年といえば、列強が相克を繰り返す中でノーベル賞が創設され、日本では官営八幡製鉄所が創業を開始し、また高峰譲吉がアドレナリンで特許を取得している。明治政府が誕生して未だ30余年しか経っていない日本では、国家の基盤となる国防、財政、教育、産業(技術)の整備・充実に心血を注いでいた時代である。
    それから100年、経済のグローバル化、国家間の連帯・同盟の進展、市民社会・NGOの登場など新しい国際的潮流はあるものの、国家の枠組みを覆すにはほど遠く、21世紀においても、国家の存在をベースに競争と協調、時には対立が起こると思われる。人材こそが唯一の資源である日本としては、これまで以上に技術開発と人材育成に力を注ぐ必要がある。

  2. 先般、科学技術政策研究所が、アンケートを踏まえて「21世紀の科学技術の展望とそのあり方」をとりまとめた。21世紀にはどのような技術が実現するかという観点からの報告書であり、例えばナノテクノロジーによる完全循環型社会、宇宙太陽光発電、核融合発電の実現、人工光合成技術、音声翻訳技術の普及等があげられている。バイオと環境に関しては、技術開発により人類のフロンティアを拡大するとの見方が多いが、一部には倫理上あるいは技術開発上の限界を指摘する意見もある。総じて、20世紀における技術進歩は目覚しく、陸・海・空・宇宙をある意味では征服し、また現に次世代、次々世代の技術開発の萌芽が見られることから、21世紀の技術は、ブレークスルーが必要であるとしても、現在の技術あるいは発想の延長線上に位置付けられるものが多い。

  3. その意味で、次期科学技術基本計画において総額24兆円の必要性が明記され、また情報、バイオ、環境、ナノ・材料が重点4分野として位置付けられたことは妥当である。ただし、今日の企業経営に強く求められているスピード、選択と集中、連携の重要性は、技術開発分野でも例外ではない。とりわけ産業技術力の強化は、日本全体の研究費の8割を占める民間企業の主体的取組みが何よりも求められるが、一国の浮沈を左右するだけに国家としての意思と環境整備のための具体的取組みが必要である。
    1月6日に省庁再編とともに発足する総合科学技術会議の役割は重い。器が整えられた以上、司令塔としてトップダウン、省庁横断的取組みができるかどうかは、政治のリーダーシップに依るところが大きい。
    大学改革も重要である。護送船団方式の見直し、競争条件の導入等によって、お互いに切磋琢磨して、単なる知の源泉ではなく、地域を含む経済社会の活力の源泉になって欲しい。「政府の縦割行政の幣害の打破、産業界の自前主義の打破、大学のシステムの硬直性の打破」への挑戦が不可欠である。


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