経団連くりっぷ No.138 (2000年12月28日)

経団連第54回評議員会/12月13日
那須評議員会議長

評議員会議長挨拶

21世紀のスタートとなる来年を、
未来志向の政策運営に転換する好機に

那須 翔

景気は緩やかに回復

12月4日に発表された今年7−9月期の実質GDP成長率は、前期比0.2%と3期連続プラスになり、景気は緩やかに回復している。ただし、中身を見ると、期毎に牽引役が異なり、決め手に欠ける状況である。民需主導の自律的な回復という点からは、堅調に伸びている民間設備投資が今後も持続的に増加することが不可欠である。
一方、個人消費は回復が遅れており、名目ベースの実額ではむしろ若干減少している。このほか、輸出の減速など懸念材料があり、まだ手放しで楽観できる状況にはない。
このような足元の動向を見ると、なお財政金融面の下支えが必要ということになるが、累次の経済対策で傷んだ財政の現状や世界に類を見ない少子高齢化社会の急速な到来を考えると、それらのものがもたらす問題にどのように対処し、いかにして将来の明るい展望を切り拓いていくかということを、政策の柱の一つに据えるべき時期が来ていると思う。新世紀を迎え、中央省庁も新たに生まれ変わる2001年を、未来志向の政策運営に転換する好機にすべきである。

企業活力が発揮できるような環境づくりを

具体的には、まず、企業の活力が最大限に発揮されるような環境を迅速かつ着実に整備することが重要である。1999年3月にスタートした産業競争力会議、森内閣の下で開催されている産業新生会議などの場を通じて、従来では考えられなかったスピード感をもって数々の施策が実行されてきた。これら会議の設置に始まり、具体的な課題の指摘、政府への働きかけなど、経団連は非常に重要な役割を果たしてきた。今井会長はじめ経団連執行部のご尽力に改めて敬意を表する。
すでに企業においては、それら会議の成果をも活用する形で、事業の再構築、組織の再編などが進められているが、このようなダイナミックな企業活動を支える制度面の整備を早急に行わなければならない。商法の抜本的改革や連結納税制度の導入などが残された法制面、税制面の課題である。

規制改革・IT革命の推進

また、規制改革の重要性も指摘しておかなければならない。政府の3か年計画による計画、実行、評価のサイクルが機能し、かなりの進展をみたが、まだ計画の達成が遅れている分野があり、経済のグローバル化や情報技術の発展などに対応して分野横断的に取り組む必要性が高まっている。広範な分野にまたがる規制の緩和・撤廃や競争のためのルールづくりを政府に具体的な形で迫っていくことができるのは、経団連をおいて他にないと思う。
さらに、IT革命の推進も企業の生産性向上、活力の維持・強化に欠かせない。先般とりまとめられたIT基本戦略に基づき、競争の促進による使い勝手の良いインフラや電子商取引ルールの整備が進展することを期待している。もちろん、単にITを導入するだけでは宝の持ち腐れであり、それを道具・資源として活用して、われわれ企業が新しいビジネスモデルを創造したり、経営の仕組みを再構築するなど自ら革新を遂げていくことが肝要である。そうすれば、ITが一時のブームに終わることはなく、それを軸とした民需主導の経済成長が実現されるものと考える。
以上のように、企業活力を発揮させるための環境は整いつつあり、また、企業も後ろ向きの対応から新しい時代に向けた前向きの準備を進めつつある。経団連は、そのような企業の取組みを後押しするための環境づくりに、引き続き力を発揮していかなければならないと思う。

新しい経済社会システムの構想とその実現

次に、21世紀を迎えるにあたって取り組まなければならないのが、少子高齢化社会の到来を前提とした経済社会システムの構想と、その実現に至る道筋の明確化である。そのためには、財政、社会保障、税制、さらには中央と地方との関係などを総合的に捉えた検討が必要である。一朝一夕に答えが出る問題ではなく、その実現にあたっては国民各層にとって痛みを伴うことになる。
しかし、そのことは改革の青写真作りを先送りしても良いということを意味しない。むしろ、国民は、ここ1〜2年の足元をどう固めるかということもさることながら、その先にどのような経済社会が実現し、その中で自身が税や社会保障として、どの程度の負担を負い、また、どのような生活を送ることができるのかという問いへの答を待ち望んでいると思う。
来年1月6日には、新しい中央省庁体制が発足するが、今般の改革の目的の一つは内閣機能の強化である。この改革の趣旨を生かした、政治主導による未来志向の積極的な政策展開が期待される。経団連においては、構造改革の組合せが経済成長や財政収支等に及ぼす影響についての試算を、すでに発表しているが、それをたたき台にして、今後、国民的な議論が展開されることを期待したい。

アジア諸国との自由貿易協定を

現在、WTOを中心とした多国間の貿易体制と並んで地域間、二国間の自由貿易協定締結に向けた取組みが各国で活発になっている。そうした中、わが国としても通商政策を再構築する必要があると思う。引き続き多角的な自由貿易体制の強化に意を用いる一方、例えば、わが国と関係の深いアジア諸国と、より厚みのある関係を自由貿易協定を通じて構築することも重要であると考える。そのような関係を構築するには、一歩踏み込んで相手国の制度との調和を図る必要があるが、そのことが、わが国における構造改革を促すことにもつながる。

このように、わが国は内外において多くの課題を抱えているが、経団連は、多岐にわたる時代の要請に柔軟に対応し、21世紀においても引き続き重要な役割を果たしていかなければならないと思う。


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