経団連くりっぷ No.138 (2000年12月28日)

経団連第54回評議員会/12月13日
河野外務大臣

来賓挨拶

信頼に基づいた地球社会の構築に全力を傾ける

河野洋平 外務大臣

2000年という節目の年にわが国は議長国として九州・沖縄サミットを主催し、国際社会の今後のあり方を十分議論する機会を得た。現下の世界経済は、原油価格の上昇やユーロ安といった不安定要因を依然抱えてはいるが、多くの国・地域で景気拡大の継続が見られる。米国では、景気は拡大テンポが低下し、落ち着いてきており、いわゆるソフトランディングの期待が高まっている。ユーロ圏では、1999年夏以降、世界経済の好転とユーロ安が要因となり輸出が拡大し、投資や個人消費が増加し、景気は拡大している。

多角的な自由貿易体制の強化のためには、昨年のシアトル閣僚会議での失敗を教訓に、WTO新ラウンド交渉を早期に立ち上げることが何よりも重要と考え、わが国としてもAPEC首脳会議で合意された2001年立ち上げを目標に各国と協力している。しかし、各国の見解の隔たりは依然収斂しておらず、前進するには相当な努力が必要である。

WTOは、今や途上国の意見に耳を傾けずに新ラウンドの立ち上げは不可能な状況になっているといっても過言ではない。重要なことは「途上国への配慮」と「各国の幅広い関心への対応」である。その中でも過去のWTOの成果を維持し、WTO体制の一層の発展を図るためには、ルールの強化の重要性を指摘したい。一方、本年初めからは、WTO協定に従ってビルトイン・アジェンダといわれる農業およびサービス交渉が開始され、本年中に各国が交渉提案を提出することとされており、わが国も近く提案をジュネーブに提出する運びとなっている。

政治分野では、朝鮮半島情勢が日本にとって注目される。わが国は米国、韓国とともに朝鮮半島問題、北朝鮮との関係についてさらにお互いの国の政策を調整する必要があり、北東アジアの平和と安定の確保のためさらに一層関与していく必要がある。特に(1)北朝鮮との国交正常化、(2)ロシアとの平和条約締結など、半世紀に及び未解決な問題について、今後とも最大限の努力を払っていきたい。北朝鮮との関係では、日朝国交正常化を進めるという強い決意の下、7月にバンコクにおいて白南淳外相と初の日朝外相会談を行うことができた。そして、7年半にわたり中断していた日朝国交正常化交渉を再開したが、引き続き交渉を進めていかなくてはならない。

ロシアとはプーチン大統領訪日の際に本格的な平和条約交渉を行ったが、今後も四島の帰属の問題を確定し、平和条約を締結するとの基本方針の下、最大限の努力を行う所存である。クラスノヤルスク合意で定められた2000年の期限は間近に迫っているが、私としてもできる限り早期にロシアを訪問し、総理のイルクーツク訪問の準備をしたいと考えている。

私たちは引き続き日米関係を外交の柱と位置づけつつ、周辺諸国との関係強化に努め、さらにはEUとの緊密な連携にも一層意を用いたい。また、途上国の貧困や人権の問題、さらにはイスラム社会をはじめ文明間の対話にも十分力を注いでいく。

一方、グローバルな取組みとして、軍備管理・軍縮、不拡散の分野で、21世紀の子供たちが核のない世界に暮らせるよう、国連総会に「核兵器の全面的廃絶への道筋」決議を提出し、圧倒的多数を得て採択することができた。今後ともこの分野での外交努力の強化に努める。

21世紀の幕を開ける明年、私としては(1)米国および近隣諸国との関係の強化、(2)軍備管理、軍縮、不拡散への更なる取組み、(3)文化、文明を超えた対話と交流の推進、などの課題に果敢に取り組んでいきたい。このような取組みを通じた、人間を中心とした、信頼に基づいた地球社会の構築のため全力を傾けていく。


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